紅と黒の寓話  万聖節






「なあルカワ、パレード行こうぜ。見たいんだよオレ」
「・・面倒クセー・・・」
「お前、いっつもその調子で寝てばっかじゃん!ハロウィンだぜ。色々仮装とか面白そうじゃん!」
「毎年の事だろうが・・・」
「年中行事でも見たいの!この日はかぼちゃ尽くしのご馳走も作るからさ!」
「・・オマエも仮装するんだろうな・・」
「たりめーじゃん。この日にしねーで何時すんだよ?」
「じゃあ、その日はいいって言うまで仮装を解くな。」
「なんだよソレ。・・なんか企んでねーか?」
「どあほう。面倒クセーパレードに付き合ってやろうってんだ。そん位言う事きけ」
「えっらそーに・・分かったよ。そん代わしオメーも仮装すんだぞ!」
「・・・わかった・・・」

頃は万聖節の前夜。つまりハロウィンである。
この二人の遣り取りはほぼ毎年、繰り返されている。要は、ハロウィンのパレードに行きたい、と花道がゴネているのだ。
・・・そして、そんな花道に流川が勝てた例はない。一度として。

結局、この年も同じように万聖節の前夜ーハロウィンを迎えたのだった。

当日。花道はほぼ朝から厨房に篭ってかぼちゃをふんだんに使用したこの日の特別料理を仕上げ、その後はパレードに行く為の支度に取り掛かっていた。
白のタキシードを着込み、姿身の前に立って、もう一つの姿である黒猫に変化しようとして・・少し力を抜く。
すると、花道の頭に黒い三角の耳が残り、その両手は人のものではなく、黒いビロードのような毛並みに覆われた、ピンクの肉球が柔らかそうな・・猫の前足に変わっていた。
更に、白のズボンを少し下ろすと、尻の付け根には普段存在していない筈のもの・・・黒く細長い尻尾が揺れていた。
再び姿見で姿を整え、部屋を出て流川の許に向かう。

「ルカワ、支度できたか?そろそろ行こーぜ!」

ばん、と勢いよく主の部屋の扉を開けると、支度を終えた直後らしい流川がそこに佇んでいた。
こちらも仮装を面倒くさがったのか、黒いタキシードにマント、黒い翼を出しただけ、という普段とあまり代わり映えしない姿だった。

「なんだ、単に羽出しただけじゃん。つまんねーの」

確かに花道から見ればいつもと変わりない姿だが、それでも仮装としては充分に通用する。
何と言ってもその黒い翼がリアルだし仮にも貴族悪魔。侯爵という高い位を頂くその姿は端麗で並々ならぬ品格と迫力が否応なしに漂う。

「どあほう、オメーも変化の途中ってだけじゃねーか。・・カワイーけど。」

些か脂下がった表情で流川が花道をうっとり眺める。
白いタキシードに鮮やかな紅い髪が映え、更には黒い猫耳と前足と尻尾がオマケ付き。
思わずその場で押し倒したくなったが、なんとか堪えた。そんな事を仕出かしたら機嫌を損ねて当分させて貰えない。・・何をって夜の営みを・・・

とにかくも、二人は城を出て街の祭りに参加した。
街の至る所にかぼちゃの細工が溢れ、仮装をした人達で溢れ帰る。
とにかく色んな仮装がある。そういった人達が集団で街を練り歩く様は圧巻で見ていて飽きない。
花道は嬉しそうにあちこちとキョロキョロ目を動かし、ついでに体まで動かし、出店を冷やかしたり食べ物を買ったり、とにかく片時もじっとしていない。

「おい、どあほう、はぐれんじゃねーぞ!」

流川は何回それを繰り返した事だろう。
半端じゃなく人が溢れかえっているこんな中で自分と離れたりしたら・・・
その瞬間、流川がちょっと目を離した隙に、花道の姿が雑踏に埋もれてしまった。

「どあほう!!」

流川は血相を変えてその辺りに慌てて駆け寄った・・・

「・・・っと。あれ?ルカワ?」

花道がきょと、と辺りを見回す。何時の間にか流川と離れてしまったらしい。

「ま、いっか。すぐ見つかんだろ」

そう暢気に呟き、再び歩き出す。
自分も主も人ではない。多少離れたとしても、そう心配する事は無い筈だった。
その時、ぽん、と肩を軽く叩かれた。

「ルカワ?」

てっきり自分の主かと思い、振り返ってみると・・・



「やっと見つけたぜ、んのどあほうが・・・」

流川は肩で息を切らしていた。
流川の力ならすぐにでも花道を見つけられるものを、動揺してはぐれた辺りを駆けずり回って探していたのだ。
お陰で無駄な時間を費やしてしまったが、漸く視線の先に見慣れた紅い頭を発見した(猫耳付き)。

「おい、どあほ・・・」

名前を呼んで駆け寄ろうとして、その時やっと自分の執事が独りではないことに気が付いた。
花道の周りには数人の男女が群がっていた。
と、花道もこちらに気付いたのか、流川を振り返って笑みを向ける。

「おう、ルカワ」
「何してやがる、どあほう・・・」
「今からさ、この人達んちでパーティやるんだと。一緒にどうかって誘われてさ」
「なんだと・・・」
「あれ、お友達?彼氏、凄い格好イイねえ」
「よかったら彼氏も一緒にどう?二人共目立つし、女の子も喜ぶよ」
「こっちの子はなんか可愛いしね〜」

その内の一人(狼男のコス)が花道の肩を抱いてその顔を覗き込む。
それに流川はメラッときた。

「触んじゃねえ・・・」

その瞬間。目の前で白い光が弾けた。

やっと目が慣れて辺りを瞬きしながら見回してみると・・・

「あれ?」

先程まで自分達と共に居た筈の、赤毛と黒髪の二人が消えていた・・・


「いきなりナンなんだよルカワ!!」

その頃、流川と花道は人気が無い林の中にいた。というより、流川が無理矢理連れてきた。

「だからこんな祭りに行くのはイヤだっつうんだ。面倒クセーし息が詰まるしテメーはナンパされるし・・・」
「なんだよ、好意で誘ってくれたんじゃねーか!祭りだぜ?少し位騒いだっていいじゃんか!明日っからは騒げねえんだしさあ。」
「っとにテメーは根っからのお祭り野郎だな・・・」
「んだよ、・・んっ・・・」

口答えする口は塞ぐ、とばかりに流川は激しく花道に口付けていた。
口内を荒々しく貪り、花道の躯に手を這わし、撫で回す。

「お、おい、ルカワ、まさか・・ンなとこで・・・」

やっと口付けから解放されたものの、別の危機感に花道は慌てて流川の体を押し戻す。

「お仕置きも兼ねて、テメーがオレのモンだって再確認しとく。」
「なんだよお仕置きって・・それにこんなトコじゃヤダ!!」
「ダメだ。我慢できねえ。ココでスル。・・偶には違うトコでスルのもイイもんだろ・・?」
「ば、バッカヤ・・ん・・・」

再び口付けられ、木の幹に押し付けられて体を探られる。
服の前を肌蹴られ、流川の長い指が胸を這い回ってゆく。
その指が中心で色付く果実をきゅ、と摘んだ。

「ん、」

知らず、吐息までも甘くなっていくようだった。





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