夢路誘い
これは、夢か現か…
この世でもあの世でもない、間のような空間の中、百鬼夜行が遠ざかる鈴の音を遠くに聴きながら、自身に起こっている事も現とは思えなかった。
夢かも知れぬ。
晴明の唇に自身の唇を委ねながら、博雅はぼんやりと思う。
博雅のふっくらとした下唇を柔らかくついばんでいた晴明の唇が中への侵入を促し、僅かに開いた隙間からするりと舌を忍び込ませる。
そのまま、奥で縮こまっていた博雅の柔らかい舌を探り、些か強引に絡め合わせた。
「…ん…ふっ…」
やがて、長い接吻が終わり、
晴明の唇がゆっくりと離れていく。
博雅の瞳は焦点を結んでいなかった。
黒い瞳が潤んで晴明を見上げ、接吻で紅く濡れた唇が僅かに開き、紅い舌がちらりと覗く。晴明は、躯が熱い衝動に駆られるのを自覚した。
「博雅…」
静かに囁き、その首筋に顔を埋める。
「あ…」
博雅が戸惑った様に身動ぐ。
「怖がるな…おまえが欲しゅうなったのだ。」
耳元で囁き、博雅の直衣の衿を寛げていく。
「晴明…あの、鬼共は…」
「案ずるな。もう此処には来ぬよ。」
もう一度、博雅の唇に優しく口付けた。
博雅も、静かに目を閉じてうっとりとそれに応える。
その間にも晴明の手は博雅の寛げた襟元からするりと中に忍び込み、その肌を探っていった。
やがて、胸元に辿り着き、その色付く中心にそっと触れる。
「あっ…」
博雅が驚いた様に聲を上げた。構わず晴明の指が中心を撫で、時折爪でこりこりと引っ掻いてみせる。
「あっ…やっ…」
博雅の躯が僅かに反る。晴明の手は更に大胆に博雅の直衣をはだけ、肌を暴いていった。
「やっ…晴明…」
「恥ずかしがるな…たまにはこんな所で、というのもよかろう?」
晴明の瞳が揶揄う様に博雅を見据えると、途端に博雅の頬がかっと紅く染まった。
「ばっ、ばかっ…!」
だが、その言葉を理解した途端、博雅は躯が熱く火照るのを自覚した。
ああ、おれも晴明の呪に掛かったのか…
ぼんやりと、そう思う。
「はっ‥あ、ああっ…」
狭い牛車の中で二つの影が絡み合い、甘く濡れた聲が響き渡る。
いつか、博雅の直衣はその躯から落ちて、単衣を大きく肌蹴た胸元に晴明の頭があった。
その唇は胸の色付く中心を吸い、時折紅い舌を出してぴちゃりと舐める。
「あっ、ああ…」
博雅の喉がひくりと反る。晴明の舌は片方の突起をねっとりと舐め続け、空いた手でもう片方の突起を摘み、爪でこりこりと引っ掻いてみたりする。
「ああんっ!」
新たな刺激に博雅の躯がびくんと震え、甘い喘ぎが漏れる。
躯全体が火照り、下肢にもじわりと熱が集まってきた。
ふと、晴明が胸を弄っていた手を離し、熱を持ち始めた下肢にそっと触れた。
「やっ…!」
博雅が思わず聲を上げたが、晴明は構わず布の上からその中心を柔々と揉みしだく様に扱いていく。
布の上からでもそれが熱く形を変えているのが分かり、晴明はにやりと微笑む。その内に、布がじわりと濡れてきた。
「ふふ…博雅、布が濡れておるぞ。もう堪えきれぬか?」
「あ、あっ…や、だ、せいめいっ…」
博雅がじわりと目に涙を滲ませ、腰をくねらせる。
その煽情的な姿に、晴明の喉がごくりと鳴り、些か性急に博雅の指貫を下ろした。下帯も取り去り、下半身を露にする。
陽に焼ける事の無い脚の付け根の中央で、その中心は密やかに息づき、頭をもたげて先端からでも透明な蜜を滴らせていた。
「旨そうだな。」
晴明が頭を下肢に寄せ、その紅い舌で先端をぺろりと舐めた。
博雅の躯がびくんと震えたが、それに構わずぴちゃぴちゃと音を立てて中心を舐め続けた。
「やあっ…ん、はっ、あ…!」
博雅の口からは絶えず嬌声が漏れ続け、開いたままの口からは唾液がつう…と顎を伝う。
いつか、博雅の手が晴明の頭を押さえ、もっととねだる様に自分のものに押しつける。
それに応えるように晴明は更に深い愛撫を施す。
口で抜き差しを繰り返し、奧の袋にも手を伸ばし、強く揉みしだく。
「あっ、ああっんっ…せい、めえ…っっ」
博雅の躯はひくひくと震え、聲が甘く掠れる。
甘く啼きながら瞳を潤ませて躯をくねらせる博雅の媚態は何とも淫らがましい。
既に晴明が弄るその先端からはしとどに蜜が溢れ、体積を増して切なげに震えている。
「ふふ…博雅、おまえのものがこんなに蜜を溢れさせて…ああ、こんなに震えて。いきたいか?」
既に堪え切れなくなった博雅が涙を流して哀願する。
「い、かせてっ…も、うっ…」
「ああ、存分にいかせてやろうぞ。」
晴明の指が一際強く袋を揉みしだき歯で先端をかりっと齧り強く吸い上げた。
「やっ、あっ、ああーっっ」
博雅の躯がびくびくと痙攣しながら勢い良く晴明の口中に吐精した。その放出された殆どを晴明はさも旨そうにごくりと飲み下す。
「博雅…おまえのものは甘いな。」
「なっ、何を言うのだ」
晴明の言葉の意味を理解した途端、かっと頬が紅く染まる。
「本当の事だ。おれは何時でも味わっていたいがな。」
そのまま、博雅の精を含んだ唇で接吻を仕掛ける。
晴明の舌が博雅の唇をこじ開け、博雅の舌を捉えて濃厚な接吻を交わす。
博雅がうっとりとそれに酔っている間にも晴明の指は博雅の達したものに絡まり、鈴口から精液を絡め取る。
そのまま、博雅のもので濡れた指をその奥まった蕾にそっと触れさせた。
「あっ…!」
博雅がびくんと身を震わす。
「怖がるな…おまえが欲しいのだ。」
怯える様な博雅を優しく宥め、耳元に囁きながら顔中に接吻を施す。
次第に晴明の唇は博雅の顔から首筋、胸、下腹部へと降りて愛撫を施しながら遂に指で触れている箇所屁と辿り着いた。
晴明の紅い舌が蕾をぴちゃりと舐める。
「あっ…!」
濡れた感触に博雅が聲を上げた。晴明は構わず音を立てて舐め続け、時折精に塗れた指をつぷりと潜り込ませた。
「やあっ!」
刺激に博雅の躯が硬直し、潜った指をきゅうっと締め付ける。
晴明は、根気よく、まだ固い蕾を解そうと、唾液をたっぷり乗せて其処をぴちゃぴちゃと舐め、指を突き入れては中を掻き回す。
その度にぐちゃ、ぬちゃと濡れた、淫らな音が響いた。
「ああ…んっ…や、あんっ」
既に博雅は快楽に染まり、ひっきりなしに甘い嬌声を上げながら息を乱して悶え続けていた。
既に博雅の後孔は滴るほどに濡れそぼり、晴明が突き入れる指の本数を増やしても抵抗を感じることなく、楽に呑み込んでいった。
そればかりか、指を包む内壁が絡み付く様に柔らかく締め付けてくる。
博雅の無意識の淫らな誘いに、晴明の中心も熱く昂ぶっていった。
「博雅…もうよいか?おれが堪らぬ。」
「あ…せ、いめい…」
快楽に染まり、熱に浮かされた瞳で晴明を見つめ、その名を呼ぶ。それだけで、晴明の下肢にぐんと熱が集まった。
些か性急に己の下半身を寛げ、熱く昂ぶった中心を取り出した。
晴明のそれは、既にしなる程に反り返って体積を増し、先端からは先走りの液が溢れて滴っていた。
快楽に染まって力の入らない博雅の躯を俯せにさせ、腰を高く掲げて獣の様な四つん這いの体勢を取らせる。
「いやっ…!」
この体勢には抵抗があるのか、博雅が力の入らない躯で僅かに抗う。
「大人しくしておれ。この中は狭いのだからこの方が良いのだ…」
博雅の抵抗を封じ、その濡れた蕾に自分の先端を擦り付ける。
「あっ…」
それが何か解って、博雅の躯が更に朱に染まった。後孔が期待に震え、ひくひくと戦慄いているのが分かる。
「博雅…よいか?」
晴明の男根がぬぐ…と博雅の後孔に吸い込まれる様に突き立てられる。
「ああっ…!」
博雅の背が仰け反った。散々解された蕾は痛みを感じる事はなく、内壁が男根を包み込む様に蠢いて、更に奥に引き込もうとするかの様だった。
晴明はすぐに動きを激しくする事はなく、浅く、ゆっくりと抽送を繰り返していた。
「せい、めい…」
博雅の瞳に涙が滲み、焦らす様な軽い刺激に、躯が小刻みに震える。
振り返って潤んだ瞳で見つめても、晴明はゆっくりと動くだけだった。
「博雅…自分で動いてみよ。」
晴明が紅い唇に薄く笑みを刷く。
「さあ…博雅。おまえが悦くしてくれ。」
晴明の言葉に博雅は信じられぬ、というように目を見開き、涙を滲ませて懇願する様に見つめるが、晴明はそれ以上動こうとしない。
晴明のものを銜え込んだ肉壺がひくひくと蠢いている。深い刺激を欲する躯の欲求に、これ以上耐えられそうにない…
博雅は、深く息を吐き、ゆっくりと下肢を動かした。
腰を前後に動かし、自らの尻で抽送を繰り返す。
ぐちゅり、ぬちゅと濡れた音を響かせ、雌犬の様に腰を振り立てる。
「あっ、ああっ…あんっ!」
最初は躊躇いがちに動かしていた腰を、今ではより深く、より激しい刺激を求めて、埋め込まれた晴明の男根の先端で自身の内側を引っ掛ける様に擦ってゆく。
「あっ、ああっっ、んああっ!」
濡れた音と博雅の嬌声が狭い牛車の中に響き渡る。
「あ、ああ、せ、いめい、動いて、くれ…」
博雅が弱々しく懇願する。自身の動きだけでは物足りない。
晴明に、一番奥まで深く、激しく貫いて欲しかった。
「ふふ…自分の動きでは足りぬか。では、いくぞ…」
晴明が抽送を再開した。激しく腰を博雅の尻に打ち付けると、ぱん、ぱんと肉の打ち合う音がする。
「あ、ああっ!ん!い、いいっ…!」
博雅があられもない聲を上げ、晴明の動きに合わせて腰を打ち振る。
晴明の動きにも既に余裕は無い。腰を動かす都度、淫らな内壁がきゅうっと締まり、晴明の欲望に堪らない快楽を施していく。
「博雅…」
余裕の無い声色で博雅の名を呼び、手をその股間に延ばす。
過ぎる程の快楽に固く張り詰め、腰の動きに揺れる博雅のものを握りこみ、音を立てて扱く。
「やあっ!だ、めぇっ、いっ、ちゃうっ…!」
突然の刺激に博雅が悲鳴を上げる。
「構わぬ…達してよいぞ。」
そのまま博雅の中心を根元から激しく扱き、爪で先端をぐりっとくじる。下肢の特に敏感な二ヶ所を同時に責め立てられ、博雅の限界が近い。
「やあっ!せい、めい、もうっ…」
博雅が泣きながら限界を訴える。
「博雅…共に…」
晴明の腰の動きが一層激しくなり、博雅の中心を扱く手の動きも早まる。
「あ、ああっ、やあ、ああ―っっ!!」
晴明の手の中で博雅のものが弾け、後孔が晴明のものを強く締め付ける。
「くうっ…」
その締め付けに堪えられず、晴明のものが博雅の中で弾け、熱い欲望を内部に叩きつけた。
「あ、ああ…」
吐精の衝撃に博雅の躯が痙攣し、力尽きた様に上半身を前のめりに倒してしまう。
「ふ、うっ…」
晴明が満足気な吐息を漏らし、博雅の内からずるりと己を引き抜く。
「博雅…」
愛しげに囁き、博雅の躯を抱き起こして腕の中に抱える。
「あ…」
散々喘いだ所為で声は擦れ、大きな瞳は涙が滲んでいた。晴明は優しく微笑み、その目元に接吻を落とす。
「大丈夫か?直に邸に戻るゆえ、ゆっくり休め。」
「ん…」
こてん、と晴明の胸に頭を預ける。自分を抱き抱える晴明の温もりが心地よい。
無防備に自分に寄り掛かる博雅に、ふと悪戯心が涌いた。
「なあ、博雅…」
「ん…?」
何の疑いもなく、自分を見上げてくる黒い、大きな瞳に、ふ、と笑い、
「たまには、牛車の中で、というのも悦いものだな。」
言われた瞬間、たちまち博雅の顔が朱く染まってゆく。
「なっ、なな…せい、めい!」
「はは、怒るな。何時もと違うおまえが見れて楽しかったぞ。」
「ばか!おまえの所為だろうが!」
「機嫌を治せ。そんなおまえも可愛いがな。」
「ばか!」
邸に着くまで、晴明は笑いながら博雅をあやし続けた…
終