雪の華
その日は此れまでにない程に冷え込みが激しく、陽のある内には晴天の中、風花が舞った。
その日の宵、何時もの如く訪れた晴明の邸内で博雅はこの邸の主と酒を酌み交わしている。
流石に何時もの濡れ縁では寒すぎるので、奥の部屋で傍らに火桶を置いての酒宴であった.
「今宵は一段と冷え込むなあ。」
「うむ。昼には風花が舞っていたからな。そろそろ降り出すかもしれぬ。」
「そう言えば、やたらと静かだな。音が消えたみたいに・・・]
言う傍から博雅は腰を浮かし、廂に出て半蔀を少し開けてみる。
「おお・・・!」
開けた半蔀の先には漆黒の空より静かに、舞う様に降りてくる白い結晶。
まだ降り始めたばかりらしく、庭には未だ白く染まった様子はなかった。
「雪だ、晴明。」
「ほう、やはり降ったか。」
博雅のどこか嬉しそうな声に釣られる様に、晴明も博雅の隣で半蔀の向こうを覗き込む。
ひらひらと、音も無く花びらの様に落ちてくる雪の欠片。
二人は静かにそれを見詰めた。
声も無くそれを見詰めるうち、博雅はふとある事を思い立った。
「晴明、笛を吹いてもよいか?この様に静かな夜だ、さぞ音も冴え渡る事だろう。」
「それは構わぬが・・・もしや、外でか。」
「そうだ。直にこの澄んだ大気の中で吹いてみたいのだ。」
言い様、既に博雅は沓を履いて庭に降り立っている。
やはり、博雅は博雅である。
(風邪を引く、と言ってもきかぬだろうしなあ・・・)
晴明は深い溜息を吐き、式に袿を用意させた。
「博雅、せめてこれを羽織れ。直衣のままよりは少しはましであろう。」
「おお、すまぬな。」
晴明から袿を何枚も重ねたものを受け取り、それを羽織って懐から葉双を取り出す。
そのまま、ゆっくり瞳を閉じ、静かに愛笛を奏で始めた。
冴え渡る冷たい大気に澄んだ音が冴え冴えと響き渡る。
大気に溶け込む様に、舞う様に降る雪に包まれる様に、博雅の姿も、紡ぎだされる妙音も、冴えた大気と、静かに降り積もる雪と正に一体となっているかのようだった。
その姿が雪に包まれていく様な錯覚すら覚えて、晴明は目を奪われながらも、何か不安に駆られ、自らも庭に降り立った。
博雅の背後から笛を奏でる手にそっと触れる。
「もういいだろう・・・流石にこれ以上は本当に風邪を引く。」
「晴明・・・?」
博雅が驚いた様に振り向き、晴明を見遣る。
晴明はいつだって自分が笛を奏でるのを黙って最後まで聴いてくれていた。
このように途中で止める事など今迄に無かったのに。
晴明はそのまま後ろから博雅の身体を抱き締める。
目の前の耳元が寒さの為か紅く染まっていた。
それに唇を寄せると、ひんやりと冷たい。
「みろ、こんなに冷え切って・・・さあ、中に入ろう。」
そのまま博雅を邸の奥の部屋へと誘う。
先程まで酒を酌み交わしていた部屋に入り、火桶の前に博雅を座らせると、その手を火桶に翳し、さすってやる。
「大事な指なのだから・・・あまり冷やしてはならぬぞ。」
「・・うん、すまぬ。」
博雅は晴明のするがままに任せている。
こんな時の晴明の気遣いが嬉しい。
そこへ、式が晴明に何かを告げに来た。
それを聞いた晴明は軽く頷くと、博雅に向き合い、にやりと笑う。
「博雅、寝所が整ったそうだ。」
「え?」
次の瞬間には博雅はふわりと晴明に抱き上げられていた。
「こ、こらっ!何をするっ」
「冷えた体を温めるには人肌が一番だろう?」
構わず晴明は博雅を抱えたまま、ずんずんと奥に向かう。
寝所にも火桶が置かれ、仄かに暖かい。
先程、式が晴明に告げたのは、寝所が暖まった、という事なのだろう。
晴明は既に敷かれている褥に博雅を静かに降ろし、ゆっくりとその上に圧し掛かる。
「お、おい晴明・・」
「・・嫌か?」
「い、いや・・ではないが・・・」
徐徐に博雅の頬に赤みが差していく。
その、僅かに火照った頬に晴明はそっと手を添えた。
「急に不安になったのだ・・・先程、雪が降る中で笛を奏でるおまえがそのまま雪の中に消えていってしまいそうで・・・大気に音が消えゆく様に、おまえも消えていってしまうのではないかと・・・」
晴明にしては珍しい、不安を露わにした発言に博雅が驚いて晴明の顔を見遣ると、その美しい瞳が僅かに揺らいでいる様に見えた。
博雅はくすりと笑って晴明の首に腕を廻す。
「おれは消えたりせぬ。ここに、おまえの腕の中におるではないか。」
目の前でふわりと笑う博雅の瞳には暖かな光が宿っていて、その瞳が真っ直ぐに晴明を見詰めている。
「・・触れて、確かめてよいか?」
「おまえの望むままに」
今度は、博雅から晴明の首を引き寄せて、その唇に軽く口付けた。
「はあっ・・・」
閨には置かれた火桶の暖気の他に、僅かに湿った熱気が籠る。
人肌が醸し出す熱気と濃厚な気配。
その熱を生み出す二人は一糸纏わぬ姿で互いに絡み合っていた。
博雅の胸元には晴明の頭がある。
先程から晴明は悪戯のように博雅の、紅く尖った胸の蕾を舌先で擽り、時にねっとりと舐め上げたり、軽く甘噛みしてみたりと、執拗なまでの愛撫を施していた。
「や、ああっ・・・せ、めえ・・・」
博雅の聲が甘く掠れている。
その腕は晴明の頭を抱えていたが、腰がもどかしげにくねり、脚が褥の上を足掻く。
「こちらももう堪え切れぬか?」
博雅の片方の乳首を弄っていた手が下に降り、脚の付け根に辿り着く。
その中心には胸への愛撫だけで半ば勃ち上がりかけたものがひくひくと切なげに震え、蜜を垂らし始めていた。
それに掠める様に触れるとその下の躯がびく、と揺れる。
気にせず、晴明はそれをゆっくりと根元から扱きだした。
「あっ!」
更に博雅の聲が濡れる。
その聲に触発されたように、更に晴明の手の動きが早く、激しいものになっていく。
奥の双珠を揉みしだき、根元から先端まで音を立てて扱き、先端の口をぐりぐりと指で潰す。
「ああ!は、ああっっ」
博雅が腰を突き出して身悶える。
上気して花の色に染まった躯を汗に塗らせ、しなやかに背を反らせて快楽に喘ぐ博雅の姿を眺めるだけで、晴明の下肢に熱が集まる。
博雅が更に淫らに、美しくなっていく様をもっと観たい。
晴明はそのまま身体を下にずらし、博雅の肌に口付けを落としながら、徐徐に顔を下に移動させる。
やがて、晴明の手淫に因って勃ち上がり、蜜を噴き零してひくひくと震える博雅の陰茎を目の前にすると、おもむろにそのまま口に含んだ。
「ああっっ」
思い掛けない刺激に博雅の下肢が揺れる。
晴明は揺れる下肢を手で押さえると、口に含んだ陰茎にねっとりと舌を絡め、それが濡れそぼつまで舐めしゃぶる。
「ああ・・・ん、あ・・・」
博雅の吐息は熱く濡れ、いつか、自ら更に脚を開き、与えられる快楽を余す処なく享受していた。
晴明が念入りな愛撫を陰茎に繰り返す内、博雅の聲が啜り泣く様なものに変わっていく。
「あん・・や、あ・・も、う・・」
頭を打ち振り、過ぎる快楽に堪え切れなくなった博雅の瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「・・先にゆくか、博雅。」
言いざま、その先端にかり、と歯を立て、強く吸い上げた。
「あ、ああああーーっっ」
絶叫と共に博雅が背を反らせ、腰を突き出してその精を勢いよくぶちまける。
それを晴明は口中に受け止め、全て呑み下した。
吐精の衝撃に博雅は中々息が整わず、ぐったりと四肢を投げ出して呼吸を貪っている。
その力の抜けた下肢に晴明が手を掛け、高く抱え上げた。
その奥、秘めた箇所に息衝く蕾は快感と吐精の為か、僅かにひくついていた。
晴明は薄く笑い、そこにも顔を埋めると、その蕾に舌先でそっと触れる。
「やあっ!」
博雅がびく、と反応する。
「早くおまえが欲しいのだ・・・おれがもう堪え切れぬ。すぐに解してやるから・・」
そのまま、晴明は更なる愛撫をその蕾に施していく。
舌先でその淵を擽り、ねっとりと舐め、指を一本、埋めてみる。
途端、びく、とその躯が揺れる。
さらに晴明は唾液を乗せた舌先を潜り込ませ、内に潤いを与えようとする。
そして指を埋め、内をぐるりと掻き回していった。
時折、内のある膨らみに触れると高い聲が上がり、博雅の腰が揺れる。
それを繰り返す内、博雅の蕾がひくひくと蠢き、飲み込んだ晴明の指を締め付け、内に引き込むような動きを見せる。
試しに指を増やしてみると、それも難なく受け入れ、熱く纏わり付く。
「もういいようだな・・・」
「ああ・・・」
博雅の腰がもどかしげにくねる。
「せ・・めい・・・」
博雅の黒い瞳が情欲に濡れ、晴明を見詰める。
その表情に、晴明の腰が熱く疼く。
博雅の脚を抱え上げ、その秘めた箇所を晒し、そこに晴明の、熱く脈打って昂ぶったものが押し当てられる。
先端に蜜の滲んだそれで蕾をなぞり、ぐっと押し開いていく。
「あ、」
博雅の躯が僅かに軋む。
晴明はそのまま腰を進めた。
先端の太い括れを納めた後はずぶずぶとそのものが難なく入り込んでいく。
「ああ・・・」
博雅の背がしなやかに反る。
「入ったぞ、博雅。」
「せ・・めえ・・・」
博雅が熱の籠った、潤んだ瞳で晴明を見遣る。
その表情に、晴明の理性が吹き飛んだ。
「動くぞ。」
言いざま、博雅の脚を高く抱え上げ、腰を打ち付ける。
「ああっっ!!」
「博雅・・・」
もはや晴明にも余裕はない。
ひたすら腰を激しく打ち付け、抽挿を繰り返す。
その動きを繰り返す度、繋がった箇所からぐちゅぐちゅと湿った粘音が響き、肉のぶつかり合う音までも激しく漏れ聴こえる。
「ああっっ、はあっ、ああんっっ」
博雅はもはや聲を抑えられず、絶え間なく高い嬌声を上げ続け、晴明に縋り付いて悶え、善がる。
その腕は晴明の首に縋りつき、脚も晴明の腰に絡み付いて引き寄せる。
「博雅・・・悦い、ぞ・・」
「ああんっっ、せ、めえっっ」
互いの聲が切羽詰ったものになっていく。
限界が近い。
晴明は更に博雅の脚を大きく開き、挿入したものをぎりぎりまで引き抜き、一気に打ち付ける。
「あああっっ!!」
衝撃に博雅の内壁がぎゅる・・と一段と強く締まり、晴明のものを締め付ける。
「うう・・・っっ」
堪らず、晴明が低く呻いて博雅の内部に精を勢いよく叩き付ける。
「ああーーっっ・・・」
内部に叩きつけられる熱い衝撃に博雅も互いの腹にその精をぶちまける。
「はあ・・あ・・・」
そのまま、二人、繋がったまま互い寄り添って息を整える。
「博雅・・・」
「晴明、」
顔を見合わせてにこりと笑い、互いにしっとりと口付ける。
「・・雪はまだ降っているだろうか。」
「そうだな・・・」
晴明が低く何かを唱えると、御簾の一枚が巻き上げられ、閉じられた半蔀の一枚が開く。
其処から覗く漆黒の空の中、変わらず大振りな雪がひらひらと、花弁の如く舞う様に降っていた。
「こんなのもいいなあ・・・」
「何がだ?」
「雪の降る日はおまえと共にいたくなる。おまえとこんなにも近付きながら雪を見ると、何とも嬉しくなる・・・」
そう言って晴明を見上げ、ふわりと微笑む博雅の笑顔が眩しくて、これ以上無い程に愛しくて。
晴明はその額にちゅ、と口付ける。
「では、更に幸せな心持ちにしてやろう。雪は夜通し降り続けるであろうな・・・」
そして、また熱く絡み合い、睦み合う。
冴えた大気の中、変わらず漆黒の空からは天上からの花弁にも似た、白い雪がひらひらと絶え間なく降り積もっていった。
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