『湘北生活』
新年度というものは何かと忙しない。
それは湘北高校バスケットボール部だとて同じだ。
卒業した赤木、小暮、三井の替わりに大黒柱として新キャプテンになった宮城は必死になっていたし、
そのどうしたって慣れず空回りしてしまうところをフォローするのはやはりマネージャーの彩子だった。
試合でもない、至って普通の部活、練習をするだけなのに何をそこまで必死にならなければいけないのか。
誰もわからなかったが、とにかく皆が我武者羅になっていた。
バスケ部の問題児として名を馳せていた桜木花道も同じだった。
そんな遮二無二の期間が終わり、ようやく落ち着きを見せ始めた…最初の休日。
中学の半ばから花道は一人暮らしをしている。
花道にとって部活のない休日にはたまった家事を片付けたりしなければならない。
普段は遅刻をしたりとルーズなのだが意外と休日は朝からテキパキ雑務をこなしたり、たまには軍団と連れだってパチンコ店へ早朝出勤したりと忙しないのだ。
もともと休日をただ寝るだけで過ごすことも勿体ないと思うタイプなのだろう。
だが、今日だけは。
何もかもを忘れて思う存分眠っていよう。
シンクからあふれ出ている鍋にヤカン、カップ麺のごみ。
汗を含んで酸性臭い山となった衣類も。
全部無視だ、無視!
花道は断固決めていた。
それだけ疲労をしていたのだが、まさかの事態が静かな休日の朝に起こる。
「まさかてめえにたたき起こされるとは思わなかったぜ…ルカワ!!」
受話器の重みが懐かしい黒電話、独特の音色が休日に至福の睡眠を貪っていた花道の部屋に響いた。
リーンリーンリーンと3コール辺りで鬱陶しかった。
5コールですでに額に見なくとも血管が浮き出ているのが分かった。
ずるずると寸足らずの蒲団から這い出した花道が「…てめえ、誰だぁ?」とドスを利かせた声で出た。
普通ならばこの声をまさか男子高校生のそれとは思わず、頬に斜めの傷でもありそうな人だとビビって平謝りのすえ電話を切るに違いない。
「おい、テメエ…来い、今すぐ。」
しかしこの声にも何のその、不遜とも取れる必要最低限の言葉だけを流川楓は吐いた。
「…は?ナニ、朝から俺様にケンカ売ってんの、君。」
怒鳴り散らさず静かにモノを言う時ほど人の機嫌の悪さが分かる場合がある。
花道の場合はどちらでも本気でムカついているのだが、他人をビビらす効果があるのは断然静かな物言いの方だ。
あの桜木が大人しい…というのがより一層恐怖になる。
「…来い、とりあえず来いっつってる。」
だがその恐怖も空気を読める人間ならば、の話だ。
どうも流川楓はその辺りが若干平均よりも劣っている。読めているのかも知れないが、それを相手に穏便に伝えるという術が出来ない。
一年と少しの付き合いしかないが、この不器用さというか、横暴なところは花道は知っている。
でも知っているからと言って理解し許容している訳はない。
花道の怒号が受話器に注がれる。
「行くかっ!ボーケ、バーカ、たーこ、ルーカワ…」
アホ!
シネ!
あと二言ほど付け足して花道が電話を切ろうと思っていたら、
「…な、……!…っ」
聞き取り不可能な内容で流川の方から切れてしまった。
無機質な通話音だけが花道の耳に残される。
流川からのこんな電話は今日が初めてではない。
意味不明で、唐突で、花道を怒らせるのも度々だったが、こんな風に流川から電話を切ったことはなかった。
面と向かっていたのならそのまま殴り合いになるのだろうが、口べたな流川では電話越しで喧嘩が出来るわけはなく、花道から一方的な罵られることになる。
それでも流川は自分から電話を切ることは今日まで一度もなかった。
必要最低限な単語だけを、ぼそぼそぶっきらぼうに流川は話す。
電話だとそれが一層冷たさだけを感じて花道はあまり好きではなかったが、そんな気持ちも分からず流川なりにこのやり取りが気に入っているのだと、花道が気づくのも時間はかからなかった。
それがあの唐突で不可解な終わり。
ついぞ聞いたことはないが、まるで流川の悲鳴のようにも思えてきて。
「…ちっくしょー。」
山となっている洗濯物から比較的マシなTシャツを引っ張りだし、適当に放っていたパーカーを掴む。
その辺に転がっていたサンダルで花道は晴れた午前、休日の空の下を駆けていた。
*
流川の家はでかい。
端から端まで見えないというほどのものではないが、モデルハウスのような立派な家と庭それにゆうに車二台は停められるガレージ、その隅にはよく聞く警備会社のステッカーが貼ってある。
初めて流川宅を見た花道の第一声は「おまえ…お坊ちゃまだったのか。」だった。
自宅からそのまま走ってきた花道は重厚な流川宅の門を通り抜ける。
面倒だからインターホンも押さずそのまま扉を開けた。
「こんちわース。」とよく通る声が響く。
いつもならばそことなく流川との遺伝子を感じさせる彼の母親が「…いつも元気ね。」気だるげに出迎えてくるのだが、今日は全く別のものがいた。
花道は思わず目を見開き、それに目線を合わせようとその場にしゃがみ込んだ。
それは無垢な塊だった。
瞬きもせず、光り輝く瞳が見詰めてくる。
いきなり目の前に現れた赤い髪の大きな男に驚いているのだろうか。
声もあげず、泣きもせず、ただ見つめてくる瞳が綺麗で、花道は思わず笑った。
流川の玄関にいたのは赤ん坊だった。
何歳ぐらいなのか、赤ん坊の知り合いはいない花道は検討がつかない。
ただとても小さな、可愛らしいものであるのは分かった。
大抵子どもには目があっただけで怯えられるか、泣かれるか(…ナマハゲ扱い)の二択な反応をされる花道にとって、目の前の赤ん坊の反応は珍しくて面白かった。
指で頬を突いてみる。
赤ん坊の頬は想像以上に柔らかで、気持ちがよくて、何度も何度も突く。
「うおーやっらけー。」
感触と共に思い出すのはバスケ部監督の安西の顎だが、やはり年もいっている親父の顎よりも赤ん坊の方が断然弾力も柔らかさも違うと、花道は妙に感動した。
さすがに何度も突かれるのは嫌なのか、それでも泣こうともしないで、赤ん坊は小さな手をあげて花道の指を防ごうともがくからそのまま掴ませてみる。
その小さな手の、なんて心地よい握力だろうか。
相変わらず無反応な赤ん坊と、逆にニカニカ笑う花道。
笑いながら花道はそれにしても…と赤ん坊を見る。
泣かれるのは嫌だが、どうしたって表情がぼーっとし過ぎている。
表情よりも手とか体の方で反応を示す。
何よりも、柔らかな黒髪や、目鼻立ちが…似ているのだ。
「どあほう。」
赤ん坊が喋ったわけではなかった。
玄関から続く廊下の角から花道を呼び出した張本人が喋ってきたのだ。
「フホーシンニュウ。」
「ばーか。声かけたぞ、鍵もかけないとブヨージンめ。」
「風呂入っていた。」
流川は言うとおり、濡れた髪を首からかけたタオルで拭いていた。
「見りゃ分かるよ。」
花道は返し、赤ん坊と流川を見比べる。
やはり似ている。
「これさーオマエのガキ?」
それに思わず流川は息をブッと吹いた。
汚ねーなーと眉間を顰めつつ花道はサンダルを脱ぎ赤ん坊を片腕に抱き上げた。
「…どあほう。」
今度のそれは心底という思いで流川は花道に言った。
「だって似てんじゃん。DNA?同じじゃねーの?」
「おれはオマエ一筋だ。」
花道の軽口に流川は一言、真剣に言いきった。
流川は言葉が足らないことが多々あるが、その少ない中で必要最低限で最上の言葉という時もある。
言葉を流川はあまり知らない。
でもそれだからこそ、余分がなく、逃げがない。
鈍い花道にそれは強烈で、誤魔化しようがなかった。
「…ジョーダンも通じねえのか。アホ。」
さらに眉を顰めていたが、そこにある照れを見逃さなかった流川は溜飲を下げる。
からかってやれ、と無言のまま花道を見る。
その流川の顔がニヤケテいて、ムカついた花道はどついてやろうと思っていた時。
「ねー誰か来たの?」
流川と同じ角から女性が現れた。
ゆるいウェーブのついた肩までの黒髪のなかなかの美女だ。
「今度は妻か?」
「テメエな…」
懲りずにでる花道の減らず口に流川が呆れながら、
「サクラギだ。」
と目を鋭くさせながらやってくる美女に言った。
「あー、桜木くんかぁ。ぼんやり赤いし、でかいからそうだとは思ったけど。」
「久しぶりっすね。キョーコさん。」
美女の名は流川梗子と言う。
予想はしているだろうが流川の妻ではなく、姉だ。
さすがはと言うべきか流川の姉である梗子はすらりと伸びやかな美人なのだが、どうもさっきから花道たちを見てくる目つきは悪い。
それに流川はため息をつきつつ姉のそばへ行く。
「メガネは?」
「見当たらなくて、探そうか、やっぱコンタクトつけようか迷ってるとこなの。」
「さっきテーブルで見た。」
「えー?どこの?」
「台所?」
「疑問系なの?」
「あんま気にしてなかったから。違うかもしんね。」
「えーじゃあ見てきて。あったらついでに取ってきてよ。視界悪いと気持悪いし。」
ちなみに台所はこの廊下のすぐそばにある扉がそうなのだが。
流川は文句も言わず、素直に梗子に従った。
初めてこの姉弟のやり取りを見た時、花道はあまりの流川の従順さに驚いたものだ。
流川は実はお姉ちゃん子で、これは余談であるがこの梗子にどことなく似ているのがマネージャーの彩子で。だから彩子にも流川は概ね素直だったりする。
「桜木くーん、龍ありがとね。」
「りゅう?あー、キョーコさんの子どもっすか。」
「そうよー。ちょっと出掛ける用事があって、預かってもらおうかと思ったら家に母さんたちいなくて。」
「でー…流川に?そりゃダメでしょ、ムリでしょ、選択ミスじゃねーの?」
いくら叔父と甥という血縁関係だろうが、バスケット以外で流川が器用に立ち回っている姿を見たことがない花道は容赦なくこきおろす。
言ってしまった後に少々マズかったかとお喋りな口を閉じ梗子の反応を窺ってみれば、
「やっぱりそーよねえ。あーもうちょっと使える弟に仕込めばよかったあ。だってさ、ちょっと龍を抱いてもらってたんだけど、おしっこ漏らされてんのよ。
もー悲鳴上げるに上げらんないひきつった顔して突っ立てるの見たときには後悔してたのよね。」
さらに容赦なく言うので花道はガハハハと笑うしかなかった。
なるほどだからあの電話か。
そりゃ悲鳴上げたくなるよなあ。
ひーひー腹を抱えて笑って振り向けば、心底面白くないと心外露わに流川が見つけた近視用メガネを手に立っていた。
*
結局、花道がいるのならばいいかと梗子は子供を不安ばかりの叔父とその学友に託して出かけて行った。
お土産は買ってくるから、と言うので花道は素直に現金に、楽しみにしてます、と子守りを引き受けた。
もう少し龍が大きければそれなりに不安なり面倒かもと思っただろうが、まだ寝るのが仕事といった様子の赤ん坊ならば大丈夫かと気楽だ。
眠たそうな様子がないのが少々残念だが(眠たそうならば一緒に昼寝するだけだ。)
まさかの予想外にも龍は流川が気にいっているらしい。
はじめは花道が抱っこしていたのだが、隣に流川の姿を認めれば当然のように流川の方へと行きたがる。
そして要望通りに流川が抱いてやればまた元通り大人しくぼーっとするのだ。
「赤ん坊のシュミってわっかんねーな。おれよりルカワか?!」
少々花道は拗ねたが、大人しくしているのならそれでいいのだしと任せることにした。
台所と居間が合わさった部屋で、背にソファを当てるようにして床に直接座る。
万が一龍が腕から落ちたとしても床との距離はないし、下は毛並みのいい絨毯だから大丈夫だろう。
「メシって食わせてあんの?」
「それはやったらしー。」
子守りと言えば食事だろうと聞いてみれば、そう流川が言うので花道は何の気もなしに「ふーん。じゃあ、あとはトイレか。」とつぶやいた。
「小便はしたし、いんじゃねーの?」
「…ブハッ!テメー自分でそのネタ披露かよ!!」
「振ったのオメエじゃねーか。」
「かーっ、うわ、ルカワのくせして!振ったとかさ!おまえが笑いのこころを知ってるとはな!」
「常識じゃね?」
妙に不遜に言い切る流川に花道は腹を抱えて笑う。
龍を抱いてなくてよかった。抱いていたら思わず抱きつぶしてしまうところだ。
横で眺める流川は大げさすぎるそれに呆れそうになるが、やはりこういう挙動こそが花道らしいし、見ていて面白いなあと思う。
見ていただけなのに、ふっと手が伸びて、あの夏からだいぶ伸びた赤い髪を撫でる。
思わず手がでてしまう。
出会ったころはそれが拳骨ばかりで痛くて硬かった。
やっとこうして優しく、柔らかに触れられるようになった。
花道の髪は意外に硬い。
流川自身の髪が柔らかな猫っ毛だから余計に思うのかもしれない。
どうしてか、この赤い髪は柔らかでふわふわしていると思っていた。
想像とは逆だけど、ただ思い描いているだけよりも、柔らかだろうが硬かろうが、知ってそれをいるということ。
そして思いつきで触れられること…。
その事実は流川の唇に優越の笑みを浮かばせる。
流川が笑っていることに花道はうっすら気づいたが、何がどうしてこう底意地の悪そうな笑みをしているのか分からなかったけれど(こういう笑顔しかしないのに一部の女子は「流川くんて王子様!」などと言うのか…。)
機嫌が良いのだなあ、と簡単に理由づけして好きにさせた。
優しく触られることは嫌じゃなかったから。
すると流川の腕の中で大人しくしていた龍が手を伸ばし花道のTシャツの袖をつかむ。
「なんだぁ?」
ぼーっとしていただけの赤ん坊が動き出すのだ。興味は自然と流川の指よりもそちらに移る。
小さな手が上へ上へと必死に伸ばしてくる。
視線を合わせてやるつもりで花道が顔を下へと向けると丁度上へもがくようにしていた龍の掌が鼻を思い切り叩いていた。
無論、思いきりと言えど赤ん坊のものなので、痛くも痒くもない。
「わははは、やっとこの天才に興味を持ったか。グズだなー、さすがルカワの甥っ子!」
花道の大きな声に龍は怯える様子もなく、それどころか更に身を乗り出して花道に向かってくる。
流川も非常に抱えにくそうにしているから「かしな。」と花道が抱いてやる。
先までの、ぼーっとしていた大人しさが嘘のように。
積極的に好き勝手に龍は花道を触りまくる。
赤ん坊のすることはよく分からない。
叔父ながら一転傍観するしかなかった流川だが、あまりに容赦なく手を出す甥がうっかり花道の目に指を入れそうになっているから止めようとする。
「だいじょーぶだって。」
「目、入るぞ。」
「入れさせねーよ。ヨケレル、ヨユー、ヨユー。」
花道がそう言うからと、流川は少々不安を覚えながらも止めようとした手を、腕なんか組んでみて収まりよくしてみた。
それでも視線は絶えず、龍と花道からは逸らさなかった。
そうして見ていると、どうも小さな手は花道の顔と言うよりもその上の、赤く染まった髪が目的らしい。
今になってその珍しすぎる髪の色に興味をひかれたのか。
そうならば、先に花道が言っていたがグズなものだと流川も思う。
思い返せば玄関で花道は龍の相手をしていたようだし、普通ならばこんなに目立つ、周囲にまずいないだろう奇異な赤髪の大男に興味を示すなら見たその瞬間にするだろうに。
本当に先の先まで大人しくしていたのに、この活発さは、赤ん坊だからと片付けてもいいのだろうか。
ああ。さっきからおれが髪イジってたから?
流川が龍と会ったのは今日を入れてもそう数は知れない。
生まれたばかりのころと、今日のような姉が連れ立っての里帰りで数回。
部活がある流川は休日でも家にいることは稀だから、はっきり言って懐かれている事実自体が、何でだ?と疑問しかなかった。
実際懐かれているという認識は照れ臭いし、どこか妙だが、…まあ、そういった感情を持っている人間がひとつの動作を繰り返しやっていたり、それに興味を持っている風ならば、
赤ん坊と言えど、いや赤ん坊だからこそ同じように興味を魅かれたのか。
その考えはとても辻褄があっているように思えた。
しかし、それは正解なのかどうか。
肝心の本人に確かめるには、言葉の拙い流川と、そもそもまだ言葉を知らない赤ん坊の龍では無理があった。
んなバカなっつーか、メンドくせえ。
慣れない子守りとあまりしない仮定を基にした想像の思考で流川は疲れを覚えた。
視線を横にすれば花道が龍を抱えあげたりして上手い具合にあやしている。
練習や試合中のプレイを見ているとそう器用には見えない花道だが(これを言うと間違えなく天才が不器用とは!と怒るのは目に見えているので口にはしていない流川の評価)
花道の自宅で洗濯をしたり、料理したり、掃除したりする姿を見れば、学校以外のそういったなかなか見えない気付かれないところがとても要領がいいのはいつでも流川は驚かされる。
「ルカワー返す。受け取れ。」
そう花道は言うとすっかり大人しくなった龍をまた流川の腕へと返した。
あやすのアキタ、と我儘な理由だった。
「オレまでションベン垂れられてもヤダしー。」
「テメエな…。」
「わはは、ワリい。ブラックジョークだ。」
それは何か違うと流川は訂正を入れようとしたが、花道が「やっぱ似てるな。」と話題を振る。
「ルカワも赤ん坊のころはさ、こんなだったのかな?」
「…さあな、しらねー。」
「聞いたことねえの?」
「興味ねえ。」
「ま、そうだろうな。リュウ見るから、何となくオマエの小さい頃っつーのも想像できるけど、なかったらまず無理だな。ルカワはずっとバスケやってて、無口で、キツネってしか思わん。」
花道の言いたいことは分かる気がした。
まだまだもっと知らないところなんて山ほどある筈で。
知りたいと思う反面、それはまだ早すぎるような気がする。
昔を知るよりも、今。
次々と現れる桜木花道というものを知るのに今は手一杯で、そして十分なのだ。
「それになんてゆーか、リュウがおまえに似てるっていうか、おまえのがリュウに似てる気がする。」
「どーゆーこと?」
「こう興味持ったらまず手が出る感じ?やたら触る、手で確かめてみねえと気が済まない。」
にやっと笑って花道は言う。
それは当たっているかもしれないが、だが根本が全く違うと流川は気分を害した。
冗談ではない。
自分が花道に触れることと。
龍が花道に触れること。
自分のそれはれっきとした愛情表現以外のなにものでもない。
赤ん坊の他愛もないものと同じと思われるのは癪だ。
そんなことも分からない鈍感な花道に流川は呆れ、そして怒りも覚え、決定的に違うのだと分からせようと手を伸ばそうとする。
舌入れてやる。
赤ん坊がいようがいまいが関係なかった。
「なんっつーか可愛いっつーか、愛おしいっつーの?」
花道が流川の機嫌など気付かずに、それは美しく、愛情満ち溢れて笑うから。
流川は思わずきょとんとしてしまった。
それに花道がやっぱ似てんじゃん!!とまた声を立てて笑った。
〈了〉