素敵な流川君。


流川楓、15歳。
高校一年ながらにして在籍する湘北高校バスケ部のスタメンであり、更には自他共に認めるエースでもある。
その端麗な容姿も相俟って(本人は至って無頓着だが)女の子からの熱い視線や声援は引きも切らず。
全く持って羨ましい境遇なのだが、そんな視線や声援にも一顧だにもしない彼にも、気になるお相手は存在した。
今日も今日とて、そのお相手に逢いたい一心で彼はランニングと称して海に出、砂浜沿いをひた走る。

狙い通り。
果たせるかな、お目当ての彼(え)は流川の走る先にぼんやりとした様子で砂浜に腰を下ろしていた。
流川の目がきらりと光る。
口元が吊り上がる。
ついでに、口で言うには些かお下品な箇所まで何故か勢いを増す(・・・)
目標まであと数メートル。
徐徐に距離が縮まる。
もう少し・・・

漸く至近距離まで近付くと、徐に立ち止まる。

「ぬ?キツネ?」

お目当ての彼、桜木花道が顔を上げる。
そう、流川の気になるお相手とは、同じ部のチームメイトで同学年の、流川曰く「どあほう」こと桜木花道であった。
その花道の手元には一通の手紙と思しきモノ。
流川が近付くまでほんわ〜と幸せそうな顔で読んでいたトコを見ると、もしや送り主はあのマネージャーかも知れない。
花道の淡い片恋の相手にメラッと敵愾心と嫉妬心が湧き上がり、ムッとした表情のまま更に花道に近寄る。
彼の意識をどうにか自分に向けさせたかった。
花道の目の前に立ちはだかると、徐に自らのジャージのファスナーを下ろし、中に着ている物を見せ付ける様にバッとジャージを開く。

ジャージの中に着ていたユニフォームには燦然と「japan」のロゴが。
即座に花道は憤怒に顔が赤くなるが、ついでに見えたモノにげんなりした。

「おい。てめえ、なんでソコまで膨らましてんだよ・・・」

見ると、流川の股間が何故か盛り上がっている。

「テメーに会えたから。どあほう、責任取りやがれ。」
「待て!変態はてめえだろうが!何でオレが責任取んだよ!!」
「コレはテメーにしか反応しねえ。だから責任はテメーにある。」
「意味わかんねえし!ドサマギにヒトんこと押し倒すんじゃねえ!!」

喚く花道を勢いに任せて砂浜に押し倒し、不埒な手をその体に這わそうとする。が。
一瞬の後、花道の視界から流川が消えた。
ふと脇を見ると何故かその頭が砂浜にめり込んでいる。
砂浜に埋もれた辺りからくぐもった声が聞こえた。

「このバッシュの裏の感触は・・・仙道・・にゃろう・・・」(判る程やられてるのか?)
「なぁにナチュラルに変態行為かましてやがんだ?」

いきなり降ってきた第三者の声に、ふと見上げてみるとそこには見慣れたツンツン頭。
その長い足の裏には流川の頭。
敵校のエースは流川の頭を再度ぐりぐりと踏みにじった後、唖然とする花道の前にしゃがみ込み、その手を取った。

「桜木、久しぶりだなあ。今日も可愛いなvvゴメンな、オレがもう少し気をつけていればおまえにこんな変態を近付けさせなかったのに・・・!」
「お、おう、久しぶりだなセンドー・・・。キツネに制裁加えるんならオレが許すから遠慮なくやってくれ!」
「うんうん。おまえの為ならこんな変態野郎、今すぐにでも海にでも沈めてやるから。」

と、仙道の背後にゆらりと不穏な空気が立ち昇る。

「どあほうから離れやがれ。触るんじゃねえ。どあほうがニンシンする。」
「へえ。出来るんなら今すぐシテもいいけど?」
「フザケんな。どあほうを孕ませられんのはオレだけだ。金輪際テメーはどあほうに近寄るんじゃねえ。」
「てめぇの指図は受けねえなぁ」

睨み合う二人の背後には何故か巨大化したキツネと毛を逆立てたハリネズミ(・・・)の姿が。
対決するには非常に微妙なケモノ同士である。

「なんか妙に盛り上がってんな。・・・おーい・・・」

些か唖然と二人のバトルを眺めていた花道の背後に声が掛かる。

「よう、桜木。久しぶりだな。どうだ、調子は。」
「ん?」

「・・・おい。ちょっと待て。」
「なんだ。そんなに海に沈められたくないか。」
「あほう。そうじゃねえ。桜木に誰か近付いてんぞ。」
「なに?あ、アレはっっ」

「じいじゃねーか!久しぶりだな!」

其処に居たのは、海南の帝王こと、牧紳一。
実はこの帝王も、彼の後輩曰く、「湘北の赤毛猿」が大層お気に入りだったりする。

「リハビリはどうだ。順調か。」
「おう、やっぱキツイけどな。天才だからダイジョーブ!冬には見事復帰してみせるぜ!」
「そうか。俺はもう引退するから試合には出られないが、お前が出る所は観に行くぞ。」
「じいと試合できねーんはちっと寂しいけど、代わりにこの天才の勇姿をよっく目に焼き付けときたまえ!」
「楽しみにしてるぞ。これ、お見舞いな。」
「おお!あんがとな、じい!」

手渡されたお見舞いのケーキに花道は子供の様に嬉しそうに目を輝かす。
そんな様子を牧は目を細めて眺める。

「・・・なんだか女子高生に鼻の下伸ばすオヤジみたいですねえ牧さん。」
「にっこり笑顔でトドメ刺す所は相変わらずだな仙道。」
「どっちもどあほうに見るな触んな話しかけんな。アイツはオレのだ。」
「お前も相変わらずだな流川。桜木は誰かの所有物じゃないぞ。」
「オレのモンだ。とっくにそう決まってる。アイツと一緒にアメリカ行く。」
「行くんなら一人で行けよ。もう帰ってこなくていーから。」
「・・・やっぱりテメーとは決着付けとくべきだな」
「望むトコロ。来いよ一年坊主。」
「・・・なろう・・・」

「・・まあ、ケリ付けんのは二人で仲良くやっててくれ。・・おーい桜木ー」

「桜木くんリハビリの時間よ。」
「おう!」
「これからリハビリか。」
「おう。天才的な頑張りを披露してくんぜ。じゃーな、じい。お見舞い、あんがとな。」
「じゃあな。また来る。頑張れよ。」
「おう。・・・ところで、あの二人、どーすんだ?」
「飽きたら帰んだろ。あの二人はほっといていいぞ。」
「お・・おう。」

「あー!桜木がいねえ!!」
「とっくにリハビリに戻ったぞ。」
「畜生・・・今日こそどあほう押し倒すつもりだったんに・・・テメーなんかにかかずらってた所為で・・・」
「聞き捨てならねえなあ。怪我人押し倒すなんておめぇは鬼か。」
「テメーに言われたかねえ。変態が。」
「どっちがだよ。やっぱケリ付けようぜ」
「望むトコロだ・・・」

浜辺で仲良く(?)死闘を繰り広げる二人に付き合ってられんとばかりに海南の帝王は悠々と帰途に付いている。

「ケーキ貰って喜ぶ桜木の顔は本当に可愛いな。さて、明日は何持って行くかな。」

既に翌日のお見舞いに思いを馳せて一人、高校生とは思えぬ風貌の顔をニヤつかせる牧の姿は、どこかオヤジめいていた。


end







SD TOP /home