流川くんの恋唄


この日、湘北バスケ部は某カラオケボックスで盛り上がっていた。
言い出しっぺは三井だったか宮城だったか。とにかく、景気づけと称して騒ごうと決めたのである。
赤木と木暮はいない。二人とも忙しい。
常に目立つこの男・桜木花道の隣には永遠のライバル・流川楓が陣取っている。
実はこの二人は同じ部のチームメイトであり、ライバルであり、密かにお付き合いなるものまでしている所謂恋人同士でもあった。
実は部のほぼ全員がその事実を知っている、半ば公認の仲でもあったが。
そして花道の、流川と反対側の隣には花道の憧れの君であった赤木晴子。
この二人は妙な所で気が合うのか、今も流川の隣で話が弾んでいる様子である。
当然流川は面白くない。自分の恋人が他の女と楽しそうにしている様を苛々しながら見詰めている。

こっちを向けどあほう。ナンでそのオンナとそんな楽しそーなんだ。浮気かこのヤロウ。

「おい流川、オメーもなんか入れとけや。なんなら懐かしのアニソンでもいいぞお〜」

宮城が笑いながら差し出した歌集を形だけでも捲ってみる。
正直こんな大勢の前で歌う気もしなければ自分が知る歌なんて殆ど無いに等しい。
子供の頃、確かに子供向けアニメ位は見た覚えはあるがそれの主題歌なんて憶えている筈もない。
そんな時、不意に閃くものがあった。かろうじて覚えている数少ないアニソン(・・・)を探し、目的のものを見つけた。
ソレを入力し、徐にすっくとマイク片手に立ち上がる。
珍しい事もあるもんだと皆の注目が集まる中、ソレのオープニングが流れ出した・・・

「お、流川が歌うのか。て、・・・コレ・・・・・・マジ?・・・・・」

宮城と三井がそのイントロと画面を確認して互いに顔を見合わせ、恐怖に慄く。
花道すらも固まって最早なにも言えない。
そんな中、流川の低い声が画面に流れていく歌詞を歌いだす・・・・・

「あんまりソワソワしないで あなたはいつでもキョロキョロ よそ見をするのはやめてよ 私が誰より一番  好きよ 好きよ 好きよ・・・・・」
「ラ、ラOのラOソングぅ〜〜〜?!!!」

大抵の人間が何となく知っている、かの有名なアニソン。何でソレをコイツが知ってるんだ!という突っ込みは誰も怖くて出来なかった・・・
しかも、流川は直立不動の姿勢である一点を見据えながら、本来軽快なノリである筈のこの歌を、地を這う様な低い声でボソボソと歌っているのだ。
その、ひたと目を据えた先には流川の愛しの恋人、花道の恐怖に慄く姿があった。
そう、流川は花道を見据えながら、いっそ呪いでも掛けてるんじゃないかという雰囲気でひたすらOムのOOソングを歌っているのだ・・・

(ナンだコレは何の罰ゲームだ・・・つかオレは流川に呪われてんのか?!ナンにもしてねーぞ!!うう・・・怖えぇよお〜〜〜)

既に花道は泣きが入っている。
そして、いよいよ歌が終盤に差し掛かった。

「私が誰よりいちばん 私がいつでもいちばん あなたの全てが好きよ 好きよ 好きよ  いちばん好きよ!」

その件で流川は花道をびし、と指差しながら最後まで歌いきったのだった・・・・・・・・・
既に花道は色々な意味で限界だった。

「お、オレ、帰るぅ!!」

顔を真っ赤に染め、琥珀の瞳を(恐怖で)潤ませながら花道は脱兎の如く部屋から駆け出す。

「どあほう!!」

それを目に留めた流川もすぐさま花道の後を追って駆け出していった。
後に残された湘北バスケ部のメンバーは暫く魂が脱け出た様に呆けていたが、やがて三井がハッと気付く。

「あんのヤロー共踏み倒しやがった!」

後でワリカンで払う筈が、二人に逃げられた為、この中で一番懐に余裕がありそうな三井がこの場は立て替える事になってしまう。

「まあまあ、いつも帰りとかに奢ってやってるんでしょ?今日も奢りでいいじゃないですか。」
「桜木はともかく流川にまで奢んのはなんかムカツクんだよ!しかもあんな恐怖体験させられたんだぞ!!」
「二人共可愛い後輩じゃないですか。それにしても流川って案外情熱的だったのね・・・」
「情熱的って・・・モノは言い様だよな・・・・」
「情熱的じゃないですか!流川君、本当に桜木君の事愛してるのね・・・・vv」
「ちょ、晴子ちゃん・・・・・」

自分達でそんな会話が交わされていたとも知らず、花道に追いついた流川は彼のアパートに押し掛け、花道と対峙していた。

「どあほう、オレの気持ちが分かったか。あのオンナと楽しそうにしてんじゃねー」
「オレが何したってんだよ!テメーこそ恥を知れ!つか怖えぇんだよ!キツネの呪いでもオレに掛けようってのかああ?!」
「呪いじゃねー。愛だ。テメーにはいっつもオレの愛を捧げてんだ。」
「んな愛いらんわ!怖すぎんだよテメーは!うぎゃ、手入れんじゃねーー!!!」
「身をもってオレの愛を分からせてやる。覚悟しとけよ、どあほう・・・・・」

本気入った流川に不可能は無い、・・・・・・?

end



色々ホントにすいませんすいません・・・・・・
書いてる本人ですらイヤ〜な汗が出そうでした・・・(土下座)
何処でアノ歌を知ったのやら(怖)






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