想うは、あなた唯ひとり
「はあ…あ、…」
荒い息が深夜の暗い部屋に響く。
花道は布団の上で自らの下肢を晒し、その手は熱い中心に伸びていた。
既にとろとろと蜜を噴き零す中心の棹を擦り、先端を指先でぐり、とくじる。
「ああ……っっ」
体中を痺れる様な快感が走り抜ける。
それが堪らなくて、初めはただ、早く射精を促す為だけの指の動きが、長く快感を
味わえるような、じっくりとしたものに変わってきたのは何時からだったか。
棹から更にその下の珠にまで手を伸ばし、ゆっくりと揉みしだいた。
「は、…」
たまらない。もっと快感を味わいたい。
あの時のような…
不意に、脳裡に浮かんだ顔。
熱を帯びた、漆黒の眼差しで自分を見詰める。秀麗な男の貌…
「ああ……っっ!!」
体がびくん、と震えた瞬間、手の中のものが頂点に達し、勢いよく白濁の精を噴出した。
びくんびくん、と脈打ちながら、続けざまに若い精を噴き零す。
花道は、暫く吐精の余韻に浸っていたが、荒い息が収まると、力が抜け、その場にごろりと
横になった。
そのまま暫く虚ろな目で天上を見上げていた。
と、また脳裡に浮かんだ顔に、ぎゅ、と目を瞑り、唇を噛み締める。
あれから…流川に突然触れられた日から、花道は頻繁に自分に触れる様になっていった。
それまでにも、自分で自慰をしなかった訳ではない。
ただ、それは、どうしても溜まって張り詰めた時だけ、仕方無しに自分で抜いていた。
ただの生理現象だ。そう思っていたから、その為に雑誌やビデオ等を使う事もなかった。
それが、あの時…流川に触れられてから…
あの時を思い出す度、下肢に熱が籠る。
ただの生理現象を解消する筈が、いつか、あの時の流川の手の動きをなぞるかの様に、快感を
煽る為の動きになっていく。
その度に、あの時の流川の顔が脳裡をちらつく…
「ち…くしょう…」
じわ…と目尻に涙が浮かんできた。悔しかった。
自分と同じ男に、無理矢理に触れられた事が。
それも、自分がライバルだと意識している男から。
そして、それが忘れられず、こうしてあの時をなぞるように触れてしまう自分が、たまらなく浅ましく思えた。
何より、自分にこんな惨めな思いをさせているあの男が、流川が憎かった。
「なんでだよ…」
なんで、あんな事したんだよ。ルカワ……
悔しいと思う。
それでも、流川の鮮やかなプレイに目を奪われる。
長い経験で培ってきた努力の結晶が、今の流川の
プレイに結実している。
鋭いのに荒々しさが無く、全てに無駄が無く、一連の動作が流れる様だ。
それでも、今の自分に決して満足していない。
更に強く、更なる高処へと、飽く事なく向かっていく。
流川の、そんな処が好きだった。
流川に追い付きたい。
流川と、対等にプレイしたい。
そんな、花道の燃える様な想いが、流川に向かって奔流の様に迸る。
ルカワと、共に走っていきたい。
夜中、ふと目が覚めた。
自分の躯に廻されているのは流川の腕。
自分と同じ、しなやかに筋肉の付いた、逞しい男の腕…
そっと流川の寝顔を覗き見る。
秀麗な顔に長い睫が影を落としている。
その、薄く形の良い唇に、そっと自分のそれを重ねた。
「起きたのか。」
途端、流川が目を開ける。
「いや、ちょっと目が覚めただけ…」
「そっか。」
更に流川の腕が花道に廻される。
「桜木…」
「ん?」
「…幸せだ。」
そう言って花道の唇に軽いキスを落とす。
「…バカ。」
流川はもう目を閉じていた。
「オレもだ。ルカワ。」