夏は、いつでも暑い。
特に夏休み中の部活なんて死ぬかって位暑い。
それでも今年は何かが違う気がした。
目の端にちらちら映る一際鮮やかな赤が加わっただけで。
陽射しの熱だけじゃなく、纏わり吐く大気の熱だけでもなく。
体が熱い。奥底が熱い。
この熱をどうしたい?

どうしたらいいんだ。

桜木。

体育館のコートに鳴り響く笛に続いて休けーい、とマネージャーの声が辺りに響く。
待ってましたとばかりに数人がどやどやと急ぎ足で水道に向かう。
夏休みの部活はキツイ。今日も外は真夏日だ。こまめに休憩を取って水分を補給しないと倒れてしまう。
水道で順番待ちをしいている流川の目の前に赤がちらつく。
その紅い髪の持ち主の花道が顔どころか頭までざぶざぶと水を盛大に浴び、ばしゃばしゃと勢いよく洗っている。

「はー!さっぱりしたあっ」

漸く満足したのか、ぶるんと勢いよく頭を振り、ごしごしとタオルで顔を拭う。
飛び散った水飛沫が束の間、強い日差しに煌いた。
流川は、じっとそれを見ていた。

(キレー・・)

紅い髪に付いた水滴が眩しく陽の光を弾いて煌く。そんな彼の姿に知らず目を細める。
いつからか、こうする事が多くなった。
彼を見ていると、なんだか眩しく感じる事がある。
何気ない仕種に目を奪われたり、コートを所狭しと走り回る彼の姿に闘争心に火が点いたり。

その、汗が滴る肌はやっぱり熱いのかとか、手を伸ばして触れてみたくなったりとか。
いつだって触れたい。いつだって見ていたい。
最近、その飢えがひどくなっている気がした。

この日の練習時間が終わり、誰もいなくなったバスケ部の部室に流川と花道が向かっていた。
部室に二人が足を踏み入れた瞬間、流川の腕が伸びる。
花道は腕を引かれ、強く抱き竦められた。
眼前には流川の端整な顔。

「ルカワ・・?」

流川の黒い瞳が強く花道を見据えていた。
この瞳に熱を感じる時がある。
試合の時、コートで相手と渡り合う時、花道との日常的な喧嘩にすら、それは感じられた。
いつも、逸らされる事のない、まっすぐな熱の塊だ。それが徐徐に自分に近付いてくる。
漆黒に、自分の顔が映った、と思う間にそれとの距離がゼロになった。
唇に何かが触れている。何だろう。
柔らかいのに冷たく、どこか生々しい。
不意に、それが離れた。そこで漸く理解した。さっきのは流川の唇だ。

「なん・・・」

言葉は、再度塞がれた。
今度の感触は更に生々しく、自分の唇を覆う様に包み込み、更に深く重ねてくる。
苦しくて、思わず唇を開くと、そこから何かが侵入してくる。

なんだ、これ。
さっき触れていたのは流川の唇。
ひんやりとした、どこか硬質な感じのする・・なら、これは?
それが、縮こまっていた自分の舌を捉える。これは、流川の舌だ。
冷たく感じた唇とは裏腹に、生暖かくぬめぬめとして、柔らかい。
これが自分の口の中を這い回っているなんて。
なのに、それに舌を絡められると・・・何故か、ぞくりとする。
いつか、その舌は自分の口内を嘗め回し、下唇までちろりと舐め上げたりもする。

「ん・・・」

思わず声が出た。
ぎゅ、と流川の腕を強く掴む。
こんな・・自分の初めての口付けが、こいつなんて・・・
混乱する花道を他所に、流川は思う様その口内を蹂躙すると、漸く口を離した。
二人分の唾液がつう・・、と糸を引いて互いの唇を繋いでいた。
花道は暫し目を潤ませて、とろんとした陶酔に浸っていたが、やがて我に返ると、目前の流川の顔を殴りつけた。
それでも、先程の濃厚なキスで少し力が抜けていたのか、流川は少しよろめいただけだった。

「・・にしやがる」

口元をぐい、と手で拭って流川を睨みつける。
それでも、その琥珀の瞳は先程の余韻を映して少し潤んだままだった。
それが、この上なく甘く感じて流川はそれに見惚れる。

「・・したかったから。」
「なに・・・」

手を伸ばして更にきつく花道を抱き竦めた。
腕の中の体が身じろぐが、それに構わず手を下に伸ばして中心に触れる。

「な、なんだ?!ドコ触ってんだ!」
「るせー」

喚く花道の唇に再び流川が己のそれを重ねた。
先程と同じように再び舌を絡め花道が気を取られている隙に、下肢に伸ばした手を蠢かせる。
びく、と目の前の体が揺れた。
流川の手が花道の短パンから中に忍び込み、下着の内のものに直接触れた。

「!」

更に花道の体が揺れる。

「やめろ・・・」

花道が身を引こうとすると、途端に中心を握る流川の力が強まった。

「うあっっ」

強烈な刺激に花道の体がびくんと震え、握りこまれた中心も徐徐に硬度を増してゆく。

「もっとキモチイイ事してやる」

流川は徐に自分のパンツに手を掛け、中のものを取り出した。
それは既に天を向き、充分に硬度を保っていた。
それを花道のものに沿わせ、両方とも自分の手の中に納めて共に扱く。

「あああっっ」

それが余りに強烈に快感を齎し、花道の背が反った。
その様に流川はこくり、と喉を鳴らし、手の動きを早める。
流川の、ボールを鷲掴みにする大きな手の中で、二つの陰茎が更に硬さと質量を増し、先端からとろとろと蜜を噴き零してゆく。
手の動きと共にそれは量を増し、ぬちゃぬちゃと粘ついた水音がしきりに響く。
花道の思考は既に快楽に因り飛んでいた。
味わった事のない快感に、頭は何も考えられず、躯だけが感覚を追っていく。

「はあ、ああ・・・」

自然に漏れる聲さえも止まらない。
流川の手の動きに合わせるかのように腰が自然に揺らぎだす。

「さくらぎ・・・」

その様に流川は喉を鳴らし、更に手の動きを早めた。

「うああ・・!!」

花道の首が反らされる。
頭の中が白くなり、目の前がスパークした、と感じた瞬間・・・

「−−−っっ・・・!!!」

流川の手の中でそれが弾けた。
同時に流川のものも弾け、大量の精が二人の体中に飛び散る。
余りの快感に、二人は荒く息を吐き、そのまま倒れこんだ。
漸く息が整い始めると、徐徐に己を取り戻してきた花道は、自分の上に覆い被さっている流川の頬を殴り飛ばした。
かなり本気で殴った為、流川は吹っ飛ぶ様に後ろに倒れ込む。

「なんで・・こんな事したんだよ・・クソギツネ・・・」

紅くなった顔のまま、流川を睨みつける。
ゆっくりと身を起こし流川は、血の滲んだ口元を拭いながら、それでもじっと花道を見据えてきた。
真っ直ぐに、ただ、花道の目を見詰める。
それに、花道はたじろいだ。
この視線を向けられたのは、これが初めてではない。
時折、感じていた。流川と目が合う瞬間、いつも流川はこんな風に花道を真っ直ぐに見詰めていた。
流川の瞳は黒いのに、何故か熱を感じて、いつも落ち着かなかった。
ぼそり、と流川が呟く。

「・・触りたかった」
「はあ?」
「いつも、テメーを見ていた。見ていたら、触りたくなった。」
「・・んだよ、ソレ。オレは女じゃねーぞ・・・」
「たりめーだ。テメーは女じゃねえ。女なんか、触りたくもねえ。」
「なんだよ・・ソレ・・訳わかんねえ・・・」

流川が花道を見詰めている。
目を逸らす事なく、花道だけを。
分からない。流川の意図が。分かりたくもなかった。
自分に向けられる視線とか。
自分だから触りたいと言った流川の気持ちとか。

「オレは・・てめえなんか大ッキライだ!」

叫んで花道はその場を飛び出した。
とにかく逃げたかった、流川から。
その視線から、その想いから。
本当は、もう、それ程嫌いじゃない。流川が不器用なだけだとも、バスケに集中したいだけだとも、もう、分かっている。

嫌いじゃない。本当は・・・
何よりも、そう思ってしまう自分自身から逃げたかった。


END





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