曼珠沙華
「博雅…いちの花を見に行こう。」
晴明がそう言って博雅を外に誘った。
秋の陽が落ち掛けた刻限だった。
二人で式神の先導する牛車に乗り込み、その場所に向かう。
その式神は鮮やかな緋色の濃淡の襲を纏っていた。
暫らくすると牛車が止まり、式が到着した旨を伝える。
「ご苦労、茜。」
二人が降り立った場所は大きな池の畔にあり、辺り一面が鮮やかな紅に埋め尽くされていた。
折しも陽が紅く、大きく見える刻限であり、紅の中に飲み込まれそうな…そんな錯覚すら覚えた。
一面の彼岸花。博雅が初めて目にする紅の群れだった。
「晴明…見事なものだな。」
博雅は、感嘆して目の前の光景に見入っていた。目も眩むような紅の群れ。
「気に入ったか。」
「だが…少し恐いな。紅に呑み込まれそうで…」
博雅の語尾が上ずった。いきなり晴明に押し倒されたのだ。
「せ、晴明!いきなり何をする!」
晴明の下で博雅が怒った様に睨む。
「怒るな…此処を見付けた時に思ったのだ。此処でお前を犯してみたい、とな。」
晴明の瞳には既に情欲の火が灯っている。
博雅は、何とか逃れようと藻掻いてみるが、晴明は驚く程強く博雅を押さえ付けていた。
「晴明…いや、だ…」
「逃げられぬよ、博雅。結界を張ったからな。」
晴明の白い面が迫ってくる。美しいが、酷薄な笑みを浮かべながら。
博雅は、怯えた瞳でそれを凝視していた。
「あ…やあっ…ああ…」
博雅が引っきりなしに聲を漏らす。
博雅の下肢には晴明の頭がある。
狩衣ははぎ取られ、小袖だけになった上半身は大きくはだけられ、胸の突起は濡れて赤く光っていた。
先程まで晴明の唇と指で散々弄られていたのだ。
今、晴明は博雅の陰茎に舌を這わせている。根元から先端に向かって舐め上げ、時折袋を指で揉みしだく。
「やあっっ!」
博雅の躯がびくんと跳ねた。
晴明の執拗な責めを受けるうちに、博雅の中心からは雫が滴り、張り詰めて硬度を増していった。
「ふふ…博雅、もうこんなに垂らしておるぞ…無垢な顔をして、こんなにも淫らだとはな。」
晴明の嬲る様な言葉が聴くに堪えない。
「誰の所為だ、と…!お前が、おれを…」
博雅は顔を背けて喘ぎながらも泣いて抗議をする。
紅い花の中に横たわり、白い小袖をはだけた博雅の肢体はこの上なく晴明の劣情を煽る。
肌は上気して薄らと汗ばみ、赤く尖った乳首は濡れて光っている。
その下肢も晴明によって覆う物を取り去られ、艶めかしく汗ばんでいた。
「博雅…お前程おれを駆り立てる者はおらぬ。一度お前を抱いたら、お前しか抱けぬ。」
今度は伸び上がって胸元に顔を寄せ、立ち上がった乳首をぴちゃりと音を立てて舐めた。
「あっん…」
博雅が甘い聲を漏らす。そのまま、晴明はひたすら乳首を舐めたり噛んだりと口による愛撫を施しながら、空いた手で博雅の下肢をまさぐり、雫を垂らす中心を柔々と揉みしだく。
「ああ…や、あっ…」博雅の表情は恍惚としたものに変わっていた。
知らず、胸を弄る晴明の頭を抱えて押しつけるようにする。
それに応える様に口と手の動きを激しくすると、更に高い聲が上がり、段々と躯に力が入っていった。
「あっ、ああ、も…う!」
博雅の躯が一際ぶるりと震え、びくんびくんと痙攣しながら晴明の掌に精を吐き出した。
晴明が、その手を口元に持って行き、ぴちゃりと舐める。
「ふふ…甘いぞ、博雅。だが、こちらの方も美味そうだな。」
一息付く暇も与えず、博雅の脚を抱え上げ、その奥の蕾を曝す。
「いやっっ!晴明!」
博雅が嫌がって身を捩るが、聞く耳を持たず、蕾に舌を這わせる。
「いや、あっ…ん!」
晴明がぴちゃぴちゃと音を立てて執拗に舐め続ける
「やあ、あ、ああ…」
喘ぎ、嬌声を漏らしながらも博雅の精神は虚ろだった。
どうして…
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
今、おれの躯を好きに弄んでいるこの漢は確かにおれの親友だったのだ…博雅の瞳から涙が零れ、一筋頬を伝って行った。
下肢に顔を埋めている晴明にはその涙は見えない。
博雅の心が虚ろである事も。
今の晴明には目の前の躯が全てだった。
せめて愛しいひとの躯だけでも手に入れたくて。
ただ、執拗なまでに愛撫を繰り返す。
蕾に舌を差し入れて唾液を送り込み、指を一本差し入れてみた。
「いやあっ!」
突然の刺激に博雅は驚いて逃れようとするが、晴明はそれを許さず、中でぐちゅぐちゅとかき回す。
「あ…い、や…あっ、ん…」
そうする内に、博雅の聲に艶が混じり始めた。
躯は晴明の愛撫に馴らされてしまっている。
口でどんなに抗おうとも。
その聲を聴いた晴明は更に指を増やし、濡れた音を立てて中を掻き回した。
時折、ある一点に悪戯をする様に触れ、そこを集中して突いてみる。
「ああっ!やあっ、ん!も…とぉっ…」
博雅の腰が揺れ、甘い聲が更なる刺激をねだる。
その中心は完全に立ち上がり、絶えず雫を溢れさせている。
既に陽は沈み、薄い水色の空に薄らと白く円い月が浮かんでいた。
その下で、紅い花の中に横たわり、息を乱して喘ぐ博雅は誰よりも淫らで美しい、と晴明は思った。
博雅の表情は恍惚としており、黒い大きな瞳は潤んで濡れた艶を放つ。
そのふっくらとした肉厚の唇は紅く濡れて、喘ぐ度に紅い舌を覗かせた。
何もかもが煽情的で晴明を更に駆り立てる。
「あっ…ん、せいめい、も…うっ!」
博雅の甘い聲が早くとねだる。
晴明が欲しい、と。
「よしよし、今くれてやろう…お前が欲しいものをな。」
晴明が指貫の前を寛げ、自身を取り出す
晴明の中心はしなる程に屹立し、天を仰いだそれからは雫が溢れて伝い落ちていた。
博雅は、恍惚とした表情でそれを見ていた。
「せい、めい…は、やくっ…」
博雅が腕を伸ばす。その腕を自分の背に回させ、脚を高く抱え上げて一気に挿入した。
「あああっっ」
博雅の背が仰け反る。構わず、晴明は激しく突き上げを繰り返す。
時折、震える博雅の中心に手をやり、柔々と扱いてみる。
「ああっあっん!はあっ、あっ!」
次第に博雅の腰が揺れ、晴明の動きに合わせて揺らしていった。
その肉壁も突き上げる都度、きつく収縮し、晴明を悦ばせる。
そんな樣も晴明には愛おしかった。
誰よりも愛しく、焦がれたひと。
この存在を手に入れる為なら、おれは幾らでも狂うだろう…
「博雅…ひろまさ…!」
晴明は更に狂った様に突き上げ、中心も激しく揉み扱く。
「ああん!あっ、ああっ!やあっあっ!」
博雅の躯が歓喜に震え、聲が切羽詰まってきた。
晴明も博雅の締め付けがきつく、限界が近付いている。
「あああっっ!あん!せ、いめ、い!もっ、もうっっ…」
「ひろ、まさっ!」
晴明の躯が震え、博雅の中に思い切り放った。
「あっ!や、あああっっっ」
博雅の聲が一際高く上がり、射精の衝撃に一気に弾けた。
そのまま、二人は寄り添って抱き合い、余韻に浸る。
お互い、しっとりと汗ばみ、月に照らされて躯が鈍く光っていた。
「博雅…邸に戻るか。」
晴明が尋ねると、気怠げにこくんと頷く。
「まだ足りぬであろう?まだ宵の口だ。ふふ、夜は長い…たっぷりと可愛がってやろう…」
晴明の淡い瞳が月明かりを受けて不思議に煌めく。
その美しい瞳の奥に燠火が揺らめくのを、博雅は視た。
逃れ様のない地獄に堕ちたのだと、絶望に似た心持ちで博雅は悟った。
晴明と二人、無限地獄を何処までも歩いて行く。
彼岸花の咲き乱れる紅の中を、彼岸花にも似た漢と、睦み合いながら何処までも。
了