黒髪のみだれもしらず うちふせば まづかきやりし人ぞ恋しき
晴明がいない。
博雅は本日、何度目か知れない溜息を吐き、手の中の葉双を玩ぶ。
ここ数日、何時もこんな具合だった。
その理由は判っている。ここ一月余り、晴明に逢っていないからだ。
日を置かず訪れていた邸の主は今、京から離れている。高野山に出向いていた。
あちらで過ごす時は余程楽しいのかな・・・
そう思うと、博雅は堪らない寂しさと不安を覚える。
気付いた時には自分の邸を抜け出し、晴明の邸への路を徒で向かっていた。
せめて、晴明の存在が少しでも感じられる場所にいたい。
ほてほてと、些か足を早めてひたすら路を往く博雅の姿に、昇ったばかりの大きく円い月が、冴え始めた光を惜しみなく降り注ぐ様だった。
晴明の邸の門は閉ざされていたが、それは博雅が片手で軽く押すと音を立てて難なく開いた。
博雅が、邸が無人であっても訪れる事を知っているかのように。
博雅はそのまま庭を横切り、邸の内に入り込む。
濡れ縁で、暫しぼんやりと、淡い月の光に照らされて庭を見遣る。
此処でいつもは晴明と酒を酌み交わし、他愛のない話を楽しみ、酒肴に舌鼓を打ち、庭を眺め、興が乗ったら笛を奏で。
それから互いを見遣り、そのまま其処で甘い一時を過ごす事もあった。
或いは、酒にほんのり酔った博雅を抱き上げて閨に連れ込み、其処で・・・
そこまで想いを巡らせて、博雅ははっと我に返り、途端に顔を朱に染める。
自分があまりに淫らで浅ましいもののように思えて、一人わたわたと焦り、周りを見回してみたりする。
だが、返るのはしん、とした静寂ばかり。博雅は安堵すると同時に、また、言い様のない寂しさを深く味わってしまう。
ふと、上を見上げると、空には大分丸みを帯びた月が煌々と冴えて輝く。
その冴えた姿が愛しい男の姿と重なって・・・逢いたい、と強く想う。
晴明の涼やかな、美しい瞳に見詰められると胸が高鳴る。
その低く、けれど冴えた聲に名を呼ばれるのは心地よい。
白い狩衣の袖がふわりと舞って自分を抱き締めてくれるのが嬉しくて・・・
閨で己の肌に優しく触れる掌と唇。けれど、己を穿つ時は熱くて激しくて。
次第に博雅の躯が熱を帯びてくる。
ふらりと奥に向かい、寝所の御簾を潜る。
今は褥は敷かれていない其処に、博雅はへたり、と座り込む。
此処で、常に晴明と甘く熱い刻を過ごした。
互い口付け、舌を絡ませ合いながら晴明の手が博雅の体をなぞり、衣を乱し、そこから手を差し入れて肌を弄る・・・
博雅の躯がどんどん熱を帯びてくる。
晴明とはあまり日を置かずに睦みあっていた。一晩中放してくれなかった事もある。
それなのに、もう一月余り、晴明に触れられていない・・・
博雅が震える手を自らの狩衣の袷に伸ばし、蜻蛉を外してはらり、と衣を肩から落とす。
指貫の紐も解き、単のみの姿になって袷から手を差し入れ、肌を弄る。
胸の突起を指でくりくりと捏ね回すと、甘い吐息が漏れた。
「あ・・あ・・・」
がく、と膝を付き、ごろりと横になった。
単の前を開き、下帯までも解き、膝を立てて床に横たわり、自らの躯を弄る。
「ああ・・あ・・・」
以前に触れた晴明の指を辿る様に胸を弄り、その果実をきゅ、と摘んで爪を立てると躯がびく、と仰け反る。
その内に手を下に下ろし、既に天を向いて露結ぶ中心に手を掛け、ゆっくりと扱く。
「あん・・あ、あ・・・」
肌がしっとりと汗ばみ、仄かな花の色に色付く。
愛しい男を想って自らを弄る博雅の姿は、えもいわれぬ色香を醸し出し、艶やかに咲き匂う花の様でもあった。
ふっくらとした、唾液に濡れた唇からは紅い舌がちらちらと覗き、指が肌を弄る度に甘やかな聲がしっとりと漏れる。
やがて博雅の手は胸を離れ、そそり立った下肢の中心と、その奥に密やかに綻ぶ蕾に触れた。
しとどに濡れる陰茎の先から欲液を掬い取り、後庭の淵をなぞり、つぷ、と一本、指を突き入れる。
「ああっっ!!」
博雅の背がしなやかに反る。
長らく触れられなかったそこは、指一本ですらも侵入を拒む様にきつく、博雅は衝撃に堪え、そのまま含ませた指を動かさずにいる。
と、次第にじわじわと指を含んだ処からえもいわれぬ感覚が起こり、肉の蕾が蠢きだした。
博雅はそのまま指をゆっくりと内に進め、内壁を弄る。
そうする内に、内側にある膨らみを探り当て、其処に触れてみた。
「ああんっ!!」
途端、電流が奔る様な感覚を覚える。紛れも無い快感だった。
博雅は其処を弄り、指を出し入れし、いつか、指の本数が増えていった。
「はあ・・、あ、あんん・・・」
無人である筈の晴明邸の寝所から甘く高い、濡れた聲と音が絶えず響き渡る。
其処で、博雅が己の胸を弄り、秘所に指を絡め、もう片方の手で指を突き入れては出し入れを繰り返していた。
甘い聲と濡れた音が、閉じられる事の無い唇と、指を潜り込ませた秘所から淫らに響く。
時折、自分の中心から指を離し、中心と秘孔の間の会陰を弄ると、其処もまた、堪らない悦楽を博雅に伝える。
「ああっ、あ、ああっっ」
もはや博雅は己の肌を弄るのが自分ではなく、愛しい男のものだと信じていた。
「ああん・・・せ、めえ・・・」
晴明のあの唇が、指が、そして逞しい男根が己を穿ち、弄っている・・・
そう思うだけで博雅の肌はいよいよ熱く、肌を弄る指は激しさを増し、晴明と幾度も睦み合った閨で博雅はひとり、身悶える。
そして、博雅の指が陰茎の先をぐりっとくじり、奥を穿った指が一際奥まで突き入れられる。
「やあ!あ、あああーーっっ・・・」
その衝撃に博雅の躯が一際しなやかに反り、びくびくと痙攣をしながら果てを極めた。
「はあ・・あ、」
暫く痙攣を繰り返してから、博雅はぱたり、と手を降ろし、暫し荒く息を吐いていた。
やがて、ふと我に返り、暫くそこに脱力した様に横たわっていた。
暫くそうしてから、むくりと起き上がり、その姿で邸の裏手に廻る。
晴明邸には小さいながらも泉と邸内を巡る遣水があり、其処に博雅は身を浸した。
肌に付いた汗や精の残滓を拭い、泉から上がると、ふわりと肩に衣が掛けられた。
「晴明・・・?」
もしや晴明が戻ったかと思って振り向くと、そこに晴明は居た。
一瞬、博雅は喜色を浮かべたが、自分の肩に触れたその手の冷たさに、その纏う雰囲気に落胆し、「ちがう・・・」と呟いた。
それは、晴明の姿をした式だった。
「そうか、晴明はまだ戻らぬか・・・おまえはその留守を守っているのだな。」
式に体を拭いてもらい、衣を整えられながら博雅は呟く。
もしかしたら、式に先程の、自らを慰めている姿を見られているかも、と思ったが、式ならば、とも思い、或いはこの式を通じて晴明に己の想いが届き、早く戻ってくれればいい。とも思った。
博雅はこの日は自邸に戻った。
次の宵も、博雅は式のみがいる晴明邸に赴き、やはり其処で自らを慰めた。その間は式がいる事など博雅の脳裏からは完全に消え去っていた。
事の後に式が何処からともなく現れ、博雅の体を清めて衣を整えてくれる。それに些か慣れてしまった自分に苦笑する。
式とはいえ、晴明の姿をしたものを眺めているだけで不安が少し癒される気がした。
それでも、早く逢いたい・・・
心に幾許かの寂しさを残して、その日も博雅は自邸に戻っていった。
明けて次の日。
博雅がぼんやりと笛を玩んで思案顔でいると、開け放たれた半蔀の隙間から雀が入り込み、ちち、と鳴いて博雅の部屋に飛び込んできた。
ちゅんちゅん、と飛び跳ねて博雅の前まで来ると、その嘴からは囀りではなく人の声が漏れた。
博雅の良く知る男のものである。
「久しいな、博雅。今戻った。」
「晴明?そうか、戻ったのか!では、直ぐにそちらに行く!」
「ああ、待っている。」
それだけ告げると、雀はそこから飛び立って行った。
博雅は居てもたってもいられなくなり、慌しく仕度をし、女房を呼んで言付けをした。
「今から晴明の邸に参る。その、今宵は戻らぬ。よしなに伝えてくれ・・・」
些か頬を染めて横を向きながら言う主に女房はくすり、と笑い。
「畏まりました。どうぞお気を付けて。」
にこやかに微笑む女房に、博雅は決まりが悪そうな顔をした。
どうもこの乳母子の女房には感づかれているのかも知れない。
晴明の邸へと向かう路を、何時もの様に、やや急ぎ足で向かっていった。
邸の前に立つと、閉ざされていた門がひとりでに開いて博雅を迎えた。
逸る心を押さえながら庭を横切り、濡れ縁を目指す。
何時もそこで刻を過ごす濡れ縁には、戻ったばかりとは思えぬ様に、晴明が寝そべって盃を片手にしていた。
「来たか、博雅。」
「晴明、やっと戻ったのだな。」
「ああ。暫く留守にして済まなかった。まあ、座れよ、酒を用意させた。」
「おお、おれも酒を持参したのだ。」
「ほう。それは嬉しいな。」
其処で、暫く二人は何時ものように酒を酌み交わし、ゆったりとした刻を過ごした。
「しかし、今回はやけに長引いたのだな。それ程に高野山は楽しかったのか。」
「うむ、色々と興味ある経典などもお目に掛かれたからな。だが、何時もならもっと過ごしていた処なのだ。ふふ、それ程に早く戻ってほしかったのか?」
「う・・・ああ。おまえが居ないのは・・寂しかった。何度も早く戻らぬかと思った・・・」
「そうか・・・」
晴明が嬉しそうに微笑むと、ふわりと柔らかく博雅を抱き締める。
「おれも、あちらで坊主共の辛気臭い面を拝むよりは、おまえの可愛い顔を早く眺めたかった。おまえにこうして触れたかった・・・」
晴明の胸に顔を埋めていた博雅の顔に手を添え、上向かせると、自らの顔を寄せて、心持ちうっすらと開いた柔らかな唇に、しっとりと口付けた。
そのまま舌をするりと忍び込ませ、口付けを深いものにしていく。
博雅も晴明の首にしなやかに腕を絡ませ、甘く濃密な口付けに酔いしれていった。
「ん・・ん、んっ・・・」
久方ぶりに互いの唇を心ゆくまで堪能し、ゆっくりと離れると、博雅はほう・・と息を吐き、目元が仄かに染まった、潤んだ瞳で晴明を見上げる。
晴明はその表情に、体が熱くなってゆくのを感じ、再び博雅に口付けると、そのまま体に手を廻して抱き上げ、奥へと向かって行った。
既に用意されていた褥に博雅を降ろし、その上に伸し掛かって唇を貪る。
口付けを施しながらも晴明の手が博雅の直衣の袷に掛かり、蜻蛉を外して内を探る。
口付けを解き、そのまま露わになった首筋に吸い付くと、「あ・・・」と博雅が密やかな吐息を漏らす。
そのまま更に袷を開き、胸元を露わにして其処に顔を埋めた。
鎖骨に歯を立て、顔を下にずらして胸の頂きに舌を這わせる。
「あん・・・」
博雅が晴明の頭を抱えて強請る様に押し付ける。
晴明は薄く笑うと、更に舌を胸に這わせ、時折歯を立てたりして愛撫を施しながら更に袷を完全に開いて胸元を全て露わにした。
「ああ・・あっ・・・」
博雅が甘い吐息を漏らしながら、その愛撫に徐徐に溺れていく。
と、ふと晴明が動きを止めた。
甘く喘いでいた博雅は、己に触れていた肌が遠のいた事に不安を覚え、薄らと目を開く。
己から離れた晴明がひとつ手を打つと、几帳の陰から晴明の姿をした式がす、と現れる。
それは博雅がこの邸で一人の刻を過ごした後、自分の身支度を整えてくれていた。何故、今ここに・・・?
「せいめい・・・?」
微かな声で晴明を呼ぶと、こちらを向いた晴明がにたりと笑う。
その笑いに、博雅は言い知れぬ不安を覚えた。
「博雅・・・おまえは余程一人寝が寂しかったと見える。おれを想って自らに触れる程にな・・・」
「な・・・!何故それを・・あっ!」
そこまで言って慌てて口を塞いだが、それはしっかりと晴明に聴かれてしまった。
それに、あの式を見て何となく解ってしまった。あの式を通じて晴明は己のあられもない姿を視ていたのだ・・・!
あまりの羞恥に顔どころか体全体を朱に染めて横を向いてしまった博雅に、更に晴明は言葉で煽る。
「おまえがおれを求めて自ら乱れる姿・・これ以上はない程の良き見物であった。その姿をもっとおれに見せてはくれまいか?」
晴明がちらりと式を見遣ると、式は黙って博雅の傍に寄り、その上に伸し掛かりる。
「な・・・!せ、晴明!何のつもりだ!」
「なに、おまえがおれに抱かれてどの様に乱れてくれるのか・・それをよく見たいだけだ。」
「やだ!いやっ、晴明!!」
博雅が必死に抗うが、式はその躯を柔らかく押さえつけ、顎に手を掛けてしっとり口付けた。
それにも博雅は抗う素振りを見せるが、式はそれに構わず、手をその股に滑らせ、更にもう片方の手を胸に這わせ、その頂の果実をきゅ、と摘んでみる。
「ん!」
びく、と博雅の躯が強張る。
式はもう片方の手をも博雅の太腿に這わせ、指貫の紐をしゅる、と解いて内に手を潜り込ませた。
内股をやわやわと撫で、その中心に触れる。
「!」
ひく、と博雅の腰が揺れた。
その先に待つものをこの躯は知っている。でも、それは愛しい者にのみ許した事・・・
博雅の葛藤を他所に、式は下肢の中心をやわやわと擦り、扱き上げる。
「ああ・・ん、や、あ・・・」
晴明本人ではなくても、その姿を似せているだけで、与えられる愛撫に快楽が高まり、甘い聲で啼いてしまう。
式は博雅の玉茎をゆるゆると扱きながらも体を下にずらし、下肢に顔を寄せ、先程まで手で弄っていたそれをすっぽりと口に銜え込んだ。
「あっ・・・!」
思わぬ感触に博雅の背が反る。
式はそのまま玉茎の裏筋を舌先でなぞり、口に含んでは出し入れを繰り返し、先端を舌先でちろちろと突付く。
「ひ、ああ・・・あ、ああっ・・・」
博雅は更に背を反らせて身悶え、己の下肢に顔を埋める式の頭に手を遣って、知らず押さえ付けてしまう。
式ではあるが、己の姿をしたものに思う様乱れて悦びに悶える博雅を眺めて、晴明は体が熱くなるのを感じていた。
息が荒く、下肢に熱が集まる。
その晴明の目の前で、式の動きはいよいよ濃密なものになり、博雅の啼き聲が追い詰められたものになっていった。
「やあ・・ああっ、ひああっ・・・」
びくびくと跳ねる博雅の下肢を押さえ付け、式がその先端をきつく吸い上げ、かり、と歯を立てる。
「ああ!あ、やあああーっ・・・・」
絶叫と共に博雅の背がこれまでになく撓り、びくびくと躯を震わせて式の口中にその欲をしとどに吐き出した。
それを受け止めて、式が博雅から体を離すと、力の抜けた身体が四肢を投げ出して横たわる。
はあはあと荒く息を博雅の胸が波打ち、紅く色付いた頂の果実が淫らに揺れていた。
再び式がす、と近付き、弛緩したその躯に手を掛けてうつ伏せにし、腰だけを高く掲げた姿を取らせる。
「いやっ・・・」
羞恥を誘うその姿に博雅は抗うが、式は構わず、柔らかな尻を揉み、その奥に息衝くものを探り、其処にぴちゃ・・と舌を這わせた。
「やあ!」
あらぬ処への濡れた感触に腰が揺れる。
しかし、その先に待つ快楽への期待に、躯が熱く疼いてくる。
でも、本当は、幾ら晴明に姿を似せているとはいえ、晴明ではないものに犯されたくはなかった。
己と睦み合うのは、この躯を思う様弄って良いのは、晴明だけであって欲しかった・・・
博雅の思惑とは裏腹に、式はその秘めた蕾を舌先で探り、その内に潜り込ませては淵を嘗め回し、時折、指をつぷ、と入れる。
衝撃に躯が強張るのも構わず、内を探り、深く挿入を繰り返し、本数を増やして存分に蹂躙を施した。
その度に壁が蠢き、指に纏わり付く動きを見せる。
やがて、その指が内側のぷくりとした膨らみに触れた。
「ひ・・・っ!」
博雅の背筋を電流の様な痺れが走り、内壁がきゅう、と締まる。
躯が悦びに震える事を見て取った式は更に指の本数を増やし、執拗に其処を責め立てる。
「はあ・・あ・・ああ・・・、せ、めい・・・」
既に博雅は正気を飛ばしていた。
己の秘孔を弄るのは晴明だと信じ、甘く舌ったらずな聲で愛しい男の名を繰り返す。
そして、遂にその散々解された蕾に式の猛ったものが押し当てられた。
「あ・・・」
博雅は自ら腰を突き出し、脚を開いて男を待つ。
「は、やく・・・」
早く、この熱く疼く淫らな処を深く貫いて、激しく掻き回して欲しい。
早く、満たされなかった餓えを己と共に深く満たして欲しい。
その誘いに応える様に、式のものが博雅の蕾にずりゅ・・と入り込み、そのまま一気に腰を進める。
「あああっ・・・」
やっと、待ち望んでいたものが満たされる悦びに博雅はきゅ、と眉を寄せ、背を撓らせて躯全体で悦びに震える。
式はそのまま腰を動かし、肌を打つ音が響くほどに腰を打ち付け、角度を変えて何度も其処を穿つ。
「ああん!ああ、あっ・・・」
博雅の腰も次第に揺らめき、己を穿つ男の動きに合わせる様に腰を前後に激しく振り、高く甘い聲で悦ぶ。
その口元は閉じられる事は無く、唾液がつう・・と伝い落ちる。
と、博雅の顔にす、と影が過ぎる。
何時の間にか、その式を作り出した晴明本人が博雅の前に立ちはだかっていた。
「博雅・・・」
名を呼ばれ、顎を掴んで上向かせられ、博雅は悦楽に僅かに開いていただけの瞼を開く。
そこに映ったのは、今、己を穿ち続けている筈の男・・・
「せ、めい・・・?」
「そう、今おまえを犯しているのもおれの姿をした式だ。おれ以外の男にもおまえはそんなに悦べるのだな・・・」
「やっ!い、や・・・!おまえ以外の男など・・・!!」
漸く状況を把握した博雅は、今の己を見られたくなくて、顔を横に背けて抗う。
と、式が一際強く博雅の内を穿ち、悦楽の膨らみを突いた。
「ああんっ!!」
博雅が一際甘く啼き、その内壁が式のものをきゅう・・と締め付ける。
「ほら、現にこうしておまえの躯は悦んでおるではないか・・・おれ以外のものに犯されているというのにな。」
と、晴明が己の指貫に手を掛け、紐を解き、其処から博雅の痴態に昂ぶったものを取り出した。
「な・・・!」
「博雅、まずはこれを鎮めてみよ。おまえの淫らな嬌態を眺めている内にこうなってしまったのだからな・・」
「や、いや・・・」
「さあ・・・」
更に晴明は博雅の唇に己のものを差し付ける。
先に露結ぶそれの生々しい臭いが鼻を突く。だが、博雅には馴染んだ臭いだった。
滅多にはしないが、晴明と睦み合う時、偶に博雅が奉仕をする時もある。
または、己と晴明のそれが混じり合ったものを含まされたり、顔に擦り付けられたり・・・
想い出す内に躯が高揚し、震えながら晴明のそれにちゅ、と口付ける。
更に、舌をそれに這わせ、口中にすっぽりと銜え込んで・・・
「ん、んう・・っっ」
必死に晴明の男根をしゃぶりながら、後ろは式に犯されたままで。
「んん・・・っ・・・」
上下の口を晴明に犯されている。そう思うだけで、博雅は此れまでにない高揚を感じていた。
あんなにも焦がれ、愛しい男を求めて自らの躯をその手で慰めてしまう程に求めた男。
その男にこんなにも求められ、自らも欲して・・・
そう想うと、博雅は晴明のこの、無体とも言える行為を赦す気にさえなっていた。
こんなにも己の躯を好きに蹂躙されていながら、それでも、この行為の根底の想いが解るから。
自分も、狂う程にこの男を求めたから・・・

後ろからは、絶えず自らの奥を突き上げる律動と、ぐちゃぐちゃと濡れた淫らな水音。
その動きに合わせる様に腰を揺らめかし、前の口で必死に愛しい男の玉茎を頬張って・・・
「ふふ・・博雅、悦いか・・・尻をそんなに揺らして・・・」
「んん・・ふ、うん・・・」
博雅は晴明の言葉と式の突き上げに身悶えながらも、晴明のそれから口を離さず、必死に奉仕を続ける。
と、一際強く式が博雅の内を突き上げた。
「んんっっ!!」
堪らず博雅は口を離し、高い聲で喘ぐ。
「ああんんっ!!」
最早博雅には再び晴明に奉仕を施す余裕など残っていなかった。
只、深く熱い突き上げに翻弄され、身悶えて甘い聲で啼くばかりである。
「ほら・・博雅、口を止めてはならぬ。その淫らな唇でおれを悦ばせてくれなくてはな。」
言い様、晴明が博雅の頭を掴んで己の股間に引き寄せ、無理矢理猛り立つものを含ませた。
「んぐっっ!!」
そのまま博雅の頭を掴んで揺さぶり、強引に奉仕を促す。
「んぐっ、う、んんんっっ」
「よいぞ・・博雅・・・」
晴明の息が上がり、表情に恍惚としたものが交じる。
博雅も、突き上げられ、追い上げられて、次第に躯が切羽詰ってきていた。
股間で震える博雅のものが腹に付くほどに反り返り、しとどに蜜を垂らしている。限界が近かった。
晴明も、博雅の口が出し入れを繰り返す度に銜え込ませている男根がいよいよ張り詰めて硬さを増し、はちきれんばかりになってきている。
と、博雅の後ろを犯している式が一際深く博雅の悦楽点を抉った。
「−−っっ・・・!!」
晴明のものを含んだまま、くぐもった聲で博雅が頂点に達し、その中心から勢いよく白濁の蜜を吐き出した。
その衝撃に晴明のものに歯を立ててしまい、晴明も呻きながら達し、博雅の口から己を引き出して欲を吐き出す。
博雅の顔に晴明の濃い精がしとどにぶちまけられた。
「あ・・あ・・・」
がくがくと博雅の躯が崩折れ、晴明は満足げな顔で博雅を眺めていたが、式に目を遣ると、それを見止めた式が再び博雅の躯を抱き起こし、抱え上げて胡坐をかいた己の上にその躯を落とす。
「あ、あーーっっ!!」
未だ繋がったままの秘孔に式のものが体重でより奥深くまでずぶずぶと入り込み、余りの衝撃に背を思い切り撓らせて身悶える。
そんな博雅の脚に手を掛け、式は腰を使って下から突き上げる。
「やあっ、は、ああっっ」
一度達した躯は余りに過敏に快楽を拾い上げてしまい、博雅は正気を飛ばし、ただ、高く甘い聲で善がり狂う。
と、晴明がす、と博雅に近付き、余りの悦楽にびくびくと跳ねるその躯に手を掛け、下肢の中心で達したばかりだというのに快感の為、撓る程に反り返ってしとどに蜜を噴き零すその陰茎に顔を寄せ、舌をちろり、と這わせた。
「ひいっっ!!」
新たな刺激に博雅がびく、と身を反らせる。
晴明はそのまま、びくびくと震えるそれを口中にすっぽりと含み、口淫を施した。
口で挿入を繰り返し、裏筋に舌をねっとりと這わせ、先端を吸い上げる。
「ひいっ!いやあっ、せ、めいっ、は、なしてっ・・!!」
堪えきれぬほどの悦楽に博雅は泣き叫び、頭を振って懇願するが、晴明は口淫を繰り返す。
時折、博雅のものを含んだままちらり、と上を見上げ、己の齎す愛技に悶える様を眺めて愉しんでいる様でもあった。
「はあっ!や、あはあっっ!んあ、せい、めい・・・!!」
博雅は、後ろからの深く強い突き上げと、前へのねっとりとした濃厚な口淫にひたすら涙を流して悶え狂う。
汗に塗れた躯はぬらぬらと濡れ光り、忙しない喘ぎに上下する胸元の果実はぴん、と固く尖り、一際紅く熟れている。
それでも、腰は式の突き上げに合わせる様に揺らめき、ずっぽりと男のものを銜え込んだ奥の蕾は其処を犯すものに絡みつき、締め上げ・・・
時折、式の指が胸元を彷徨い、つん、と尖った果実をきゅ、と摘んでみたりする。
「や、あんっ!」
その度に甘く悦ぶ聲が上がる。
晴明邸の寝所には、籠った熱気と人肌と精の混じった匂い、荒い息遣いと甘く掠れる聲、ぐちゃぐちゃと濡れた、何処か淫らな音、肌がぶつかる音が折り重なっていた。
その時、式が博雅の脚を抱え上げ、降ろした、その瞬間に下から更に強く博雅の内を突き上げる。
それが内の悦楽の膨らみを強く擦った。
「いやあ、ああっっ!!」
博雅が更に身を折れんばかりに撓らせる。と、晴明も博雅のものの先端にかり、と歯を立てた。
「あああーーーっ・・・!!・・」
途端、堪え切れず博雅のものが弾け、びくびくと痙攣をしながら晴明の口中にその情欲を吐き出した。
そのまま、博雅の意識が遠ざかる・・・