きらきらひかる


5月も半ばの京都。
時期的には最も清々しいこの頃の古都は、各地の中学・高校に於ける修学旅行生で溢れかえる時期でもある。
湘北高校でもその例に漏れず、無事最高学年に進級出来た流川と花道も初めて京都を訪れ、花道などは好奇心にその琥珀の瞳を普段以上に輝かせ、物珍しげにあちこちと忙しなく瞳を動かす。
傍らに流川がいるのは偶然ではない。
3年になり、彼等はやっと同じクラスに組み込まれたのだった。
この時既に、互いの恋人というポジションに収まっていた彼等は何をするにも行動を共にし、(どちらかというと花道の居る処流川の影あり、という感ではあるが)旅行のグループ分けにも当然の様に流川が花道の傍から離れなかった。
同じグループのクラスメイトは、この二人を一緒にして目的地では別行動をしよう、とこの時心に決めた。
何といっても流川の面倒は花道にしか見れない。
一年の時から変わらず無口・無表情・無愛想を通してきた流川は、女子に人気こそあれ、男子に取っては扱いづらい事この上ない。
何時の世も、異性に人気がある同性とは煙たがられるものなのに、それに輪を掛けて扱いづらい性格。
自分達の常識があまり通用しない性格なのだから仕方ない。
本当は花道とは行動を共にしたい処だが、少しでも花道と楽しげに話したりすると流川が威嚇の眼光を向けてくる。
流石にそんなモンを平然と受け流せる程には、一般男子高校生の心臓は強くはない。
そんな訳で、目的地に着くまでは一緒、着いたら別行動で、時間を決めて待ち合わせ、という結果に落ち着いた。

今、二人はある神社の境内を散策している。
花道の手には境内で売店で購入した御手洗団子が握られていた。
境内は森の様に木々が生い茂り、更には小川までもが参道の脇を、広大な境内を縦断する如く流れていた。
敷き詰められた砂利の参道を歩きながら上を見上げると、木々の葉の隙間から木漏れ日が優しく降り注ぐ。
よく見ると、その木々は楓の割合が多かった。
まだ新緑の頃の青い楓は、色も柔らかく、陽射しに透けてそれがまた美しい。

「おー、見ろよキツネ。オメーの木があんぞ。」
「楓と言え。」
「オメーの名前とおんなしだからなあ。なんか抵抗あるっつうか。」
「照れてんのか。」
「バカこけ。でもよ、コレって秋のイメージあんだけど、まだ青い葉っぱもこうして見るとキレーだな。なんか色が柔らかくってよ。秋に紅く染まんのよかオメーのイメージに近いモンがあんな。」
「・・・ふーん?」
「ま、青臭せートコがオメーだよな!青臭せーカエデ!オメーそのもの!」

わははは、と豪快に笑う花道の笑顔に、木漏れ日の光が差し込み、それが流川には眩しく思えた。

「んじゃ、その青い楓を照らす太陽はオメーか。」
「ん?」
「ピッタリ。葉っぱは光合成しねーと生きらんねーだろ。オレもオメーいねーと生きらんねーし。」
「バッカ・・・イキナリ何ゆってんだよ・・・・・」
「イキナリじゃねー。いっつもそう思ってる。」

流川の、オニキスにも似た黒い瞳が真っ直ぐ花道を見据える。
それは最早、彼の癖とも言えた。
そうされる度、花道は目を逸らせず、ただ、顔も体も熱くなり、居たたまれなくなる。

「・・・・そろそろ時間だろ!アイツ等待ってっかもしんねーから行くぞ!」

くるりと背を向けた花道の耳は真っ赤で、彼はそれを誤魔化す様に、その場を走って流川の眼差しから逃れる。
流川には彼を逃すつもりは無かった。自分の視線からも、この先も。


その日は廻るべき目的地を全て見て廻り、花道のグループは無事に宿に落ち着いた。
食事も入浴も済ませ、各自の部屋で、自分達で敷いた布団に全員潜り込み、暫く経った頃。
花道の耳元で誰かが小声で囁きかける。

「どあほう・・・」
「んだよ・・・」

声の主は流川だった。
驚くべき事に、彼は布団に潜り込んでも寝ていなかったのだ。誰よりも寝る事を趣味とするこの男が。
花道もまた、昼間の移動で疲れていた筈なのに、何故か寝付けなかった。
枕が替わった位で眠れなくなる程、神経質のつもりは無い筈だから(現に何度も流川の家に泊まったりしている)、思い当たるフシは昼間の流川の、あの熱の籠った眼差しだろうか・・・

「・・・トイレ行く。一緒に来い。」
「そんくれー一人で行けんだろ・・」
「迷うかもしんねー」

流川も花道も、これが口実に過ぎない事は充分承知していた。




「・・・・・っ、ん・・・・」

暗闇の中、何処か押し殺した吐息が微かに空気に溶け込む。
この宿の裏手にはちょっとした竹藪があり、その奥、丁度宿から死角に当たる場所に二人は居た。
但し、二人は共に抱き合い、互いの唇は其々の唇で塞がれている。
更には、花道の下肢は何も纏わずに夜気に晒され、片脚を流川の腕に支えられていた。
花道の下肢の奥の蕾には流川の猛ったものが潜り込んでいる。
二人は夜、人目を忍んで躯を繋げているのだった。

「・・・あ、・・・っ」

流川の長い指が花道の胸を彷徨い、其処でつん、と尖った紅い飾りをきゅ、と摘むと花道の躯がぴく、と揺れる。

「外ですんのも偶にはいーな・・・」
「んな・・っ」
「特にこーゆートコだと雰囲気バッチリで、いつもよか燃えんだろ?」
「・・・っ、くだんねーコトゆってねーでとっとと終わらせろ!」
「わかった。スゲー感じさせてやっから、しっかり摑まってろ」

言うなり、流川が一旦己を引き抜き、花道の腰を掴んで体勢を変え、尻を自分に向けさせる。

「・・・オイ!」
「このほーが奥まで突ける・・・」

流川が花道の腰をぐっと掴んで、先程まで己を飲み込ませていた蕾に再び深く突き入れる。

「ああっっ」

溜まらず花道が目の前の竹にしがみ付く。

「オイ、これでも噛んどけ。」

流川が用意していたタオルを花道に噛ませた。声を抑える為だった。
途端、花道の腰を衝撃が襲う。流川が激しい突き上げを繰り返す。
そのまま二人は、共に頂点を極め、体が溶けるような激しい愉悦に身を委ねながらもお互いの躯でその熱を共有していた。

「ホンット信じらんねーよな。こんなトコでまでサカリやがってよ・・・」
「オメーだってノッテた。こーゆーのも燃えんな。アオカンっつーの?」
「もう喋んなこん恥知らず!・・・まあ、悪くはねーよ・・・」
「・・・・またヤろー。」
「もうヤダ。心臓にワリー。少なくともこの旅行中はダメだ!」
「んじゃ帰ってから。」
「気が向いたらな。」

二人は暫く竹藪の中で座り込んで、情事の後の気怠さをやり過ごしていた。
花道の背には流川の胸。花道は後ろ向きで抱き締められていた。
ふと目を巡らせると、少し先で竹藪は終わり、其処には楓の木がひっそりと存在を主張している。
花道は、流川の腕の中で、昼間見た輝く青い若葉をこっそり思い出していた。


end



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