初の陰陽師がコレです。今見ると初々しいですねえ。
今からだと想像もつきません。
二本の藤の木はほぼ満開に花を咲かせていた。
「博雅・・・笛が聴きたいな。そう、藤の下で・・・」
「それは構わぬが・・・ここでは駄目なのか?」
「その方が藤の木も喜ぶと思ってな。」
「なら、そうするとしよう。」
間もなく、博雅の葉双の音色が響き渡った。
天には満月に差し掛かった月が煌々と庭を照らす。
けぶるような白と紫の花の下。
葉双の音色は大気に溶け込むように響き渡る。
あくまで澄んだ音色だった。
躯の内側にまで染み込むような・・・
紫と白が一本ずつ。
藤の木が在った。
神が愛でしひと
庭の一隅に
こんな人間もいるものか・・・
それが、源博雅というひとを初めて知った時の晴明の感想だった。
「そう言えば博雅様についてこんな話を聞いた事がある・・・知っておるか?晴明。」
内裏内、兄弟子の賀茂保憲と並んで清涼殿へ向かう途中の事。
ふいに、保憲がこんな事を言い出した。
珍しい事もあるものだ・・・
晴明はそう思いながらも話題が博雅の事となれば、耳を傾けずにいられない。
「博雅様が産まれた時の事・・・さる徳の高い上人が山の頂にある自分の寺から明け方の空を
眺めておると、どこからともなく楽の音が聞こえてきた、というのだ。
笛二管、笙二管、筝と琵琶が一面ずつ、鼓が一。この世で聴いた事のないめでたい調べを怪しまれて
楽の音を辿られたところ、五色の雲のたなびいている邸にゆきつかれ、ある高貴の方の産まれ出ずる
ところに出遭われた。それが博雅様だ。中々趣深い話ではないか?」
「そうですな・・・正に博雅らしい。あの漢は神に愛でられていますからな。」
神の寵児。なんと自分とは対極な。
だからこそ・・・惹かれる。
闇に生きるものには尚更のこと。それはきっと自分ばかりではない。
おそらく、隣のこの男も・・・