拍手御礼小噺。
午後のひと時
県立湘北高校の昼休みの屋上。
悪友達とそこで自分の手製の弁当を平らげ、満足げに壁に背を付いて微睡んでいるのは桜木花道。
更にその花道の投げ出された長い脚の根元、膝の所に頭を乗せて寝ているのは流川楓。・・所謂「膝枕」
傍らには二つの弁当箱。花道は持参したものとほぼ同じ形と大きさ。それは流川が食したものと思われる。
そんなバカップルを眺めながら桜木軍団の面々がぼそぼそと呟く。
「今日は花道お手製の愛妻弁当か?まあシアワセそうに寝てるよ」
「花道って尽くすタイプだったんだな・・いい嫁さんになれるぜ」
「ダンナはもうそのつもりだろーよ。その内一緒に住んだりして」
「違いねえ。今だって半分同棲みてーなモンだろ?」
ぎゃはは、と自分達の大将をネタに笑い転げる面々。
何だかんだと言っても公認なのだ。
ネタにされているとも知らず寝こける花道の手は優しく流川の艶々とした黒髪に置かれている。
流川も、実に穏やかに、幸せそうに花道の膝を堪能しながら熟睡するのだった。
性少年の主張。
流川楓(15歳・男)はとにかく一途な少年だった。
それは彼が持てる全ての力を以て打ち込むバスケに於いても証明されている。
しかしその一途さは、どうやら人に対しても同じであるらしかった。
放課後の部活の正規の活動時間が終了し、既にほぼ恒例となった居残りに、この日も流川と花道が参加していた。
その居残りすら終えた後は既に陽は完全に落ち、体育館の外は容易に夜を伺わせる暗さで、校内には人気も無い。
その頃合が流川に取っては待ち望んでいた瞬間だった。何をって。
「・・・オイ、キツネ。汗クセー体押し付けんなよ。ベタベタしてキモチワリーっつの!」
「・・・ツレネー事言うんじゃねー。早くオメーとくっつきてーんだから少しくれーガマンしろ。」
「あのなあ。ガマンしてっとオメーが調子に乗っからヤメロっつってんだ!オラ、離れろ!」
「ヤダ。」
花道の抗議など聞く耳もたない、とばかりに流川はいよいよ花道の背中にべたあ、と張り付く。
そればかりか両腕を花道の体に廻し、あちこち不穏な動きで撫で回したりもしている。
この二人は所謂お付き合いをしている歴とした恋人同士であった。
そんな仲になってからとにかく流川は花道を溺愛して止まず、片時も傍を離れたくないと願い、僅かな間でも触れていたいと望み、部活に於いてはその触れ合いは殴り合いという、些か過激なスキンシップに成り果ててはいるが。
それ以外では、昼休みは屋上などで共に食事を摂り(花道の機嫌が良ければ膝枕という素敵オプション付き)、花道の家にご招待頂いた時などはその手料理に舌鼓を打ち、その後は一緒の寝床で体を使った、甘く激しい愛の語らい(・・・)を飽きもせずに繰り返す毎日だった。
それ程に花道に溺れきっている流川が、夜の密室に二人きり、という最高のシチュエーションに萌えない筈がなく、こうして隙を見ては愛しい恋人の肌に触れてくる。
しかし花道がそれを無条件で許すかというとそうでもなく。
「コラ、大概にしとけやキツネ。オリャー早く着替えて帰りてーんだよ。」
「一回だけ・・・」
「不埒なコト抜かしてんじゃねーぞキツネ!大体テメーはなんだっていっつもそうなんだよ!!」
流川の不埒な発言に怒髪天を突いた花道が振り返って重ねて抗議しようとした、が。
それは流川のチャンスでもあった。
咄嗟に花道の頬を両手でホールドして、己の端正な顔を急激に寄せた・・・
しまったと思う間もなく唇を塞がれた花道は暫くもがいていたが、流川の舌技に口内を翻弄されている内に力が抜け、いつかその両手は流川に縋りつくばかりとなっていた。
そうなれば流川の思う壺。
にんまりとほくそえんだ流川は、愛しい花道の躯をゆっくりと床に倒していった。・・・
「チクショー・・・なんで毎回毎回キツネの良いようにされちまうんだ・・・」
「どあほう。オメーがキスに弱ぇからだろ。」
しかし花道も実は満更でもなかった。
一生やってろ。