博雅が都大路を笛を奏でながら歩んでゆく。
ふと気付くと傍らには少年の姿の美しい鬼。
「相変わらず妙なる音よのう・・・」
「朱呑童子どの」
博雅が嬉しそうに笑う。
「しかし、近頃のそなたの音は少し変わった。そう、有り体に言えば・・・色が増した。」
「色・・・?」
「そなたの音を変えたのはあの陰陽師か・・・」
朱呑の紅い唇が博雅の唇に寄せられ、触れようとした時。
「童子どの、戯れが過ぎますな。」
「晴明!」
夜の闇に浮かぶ白い狩衣。
静かに二人に近寄り、博雅の腕を取って引き寄せ、抱き締める。
「博雅どのも難儀よの。このように嫉妬深い陰陽師相手ではな。」
「灯に惹かれる虫が絶えないもので。あなたのように。」
「苦労が絶えぬな、そなたも。」
「博雅の為であれば、いくらでも。」
にやりと笑う美貌の鬼と白い陰陽師。
その腕の中で博雅がひとり、きょとんとしていた。



「晴明、おれはおまえの子を産むぞ!」
「博雅・・・?」
晴明の目が見開かれる。
その日の博雅は常の姿とは異なっていた。身に纏うのは艶やかな女物の五衣と長袴。髪は解かれ後ろに流している。
何よりその顔は小さく愛らしく、身体は丸みを帯びてしなやかだった。
そう、女の姿に変じていた。
そんな博雅を嬉しげに見やり、そっと抱き締める。
「博雅・・・嬉しいぞ。では、何人でもおれの子を産んでくれ・・・」
口付けて、その場に押し倒し表着を肌蹴て単の袷から手を差し入れ、豊かで柔らかな感触を楽しむ。

と、唐突に目が覚めた。
見上げると、いつもの見慣れた博雅の顔。ただし、押し倒した筈の女の姿ではない。
「疲れているのではないか?目の前でゆっくり倒れていくものだから驚いたぞ。」
晴明は博雅の膝を借りて居眠りしていたらしかった。
と、またいきなりがばっと起きると博雅に向き直り、その直衣の襟に手を掛け、いきなり前を開く。
あまりの事に口を開けたままの博雅を他所に、肌蹴た直衣の下、単の袷から手を差し入れ、胸元をさわさわと撫でる。
博雅の身体が強張ったが気にも留めず、
「うむ、やはり胸は膨らんでない。夢か・・・」
「何なんだ晴明?」
「いや、おまえが女であれば孕ませられたのになあ。」
「なっ、なっ・・・」
「まあ、男であれ女であれ、おれが至上の悦を与えるにはかわりないがな。」
にやりと笑い、がばと押し倒す。
「こら!晴明!説明しろ!!」
濡れ縁での絶叫が甘い吐息に変わるのはまもなく・・・



「何だか日増しに寒くなってきておるなあ。」
「そうだな。だが、寒いこの時期がおれは嫌いではないぞ。」
「そうなのか?」
「ああ。それはだな・・・」
狩衣がふわりと翻り、気が付けば晴明の腕の中に抱き込まれていた。
「遠慮なくおまえのぬくもりに触れていられる。」
途端、博雅の顔が舞い散る紅葉ほどにも紅くなる。
「ばか。暑い時期であっても遠慮などせぬであろう!」
「そうであったかな。」
くすくすと愉しそうな笑い声。
君と近づける季節が来る・・・


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