天つ雷鳴
ある、麗らかに晴れた春の一日。
花々が綻び、木々の若い芽が萌え出る、山野の自然そのままの晴明邸の庭を愛でながら、晴明と博雅は酒を酌み交わしていた。酒の肴は茹でた山菜に塩を振ったり、醤を付けたもの。春の珍味である。
「今日は何とも春めいた陽気であるなあ、晴明。」
傍らでにこにことご機嫌な様で盃を口に運ぶ博雅を眺めていると、こちらまで気分が良くなるし、酒の味も違う気がする。
まったくこの漢は。
天気が良いと言っては機嫌が良くなり、酒の肴が季節のものだと言っては童の様に無邪気に喜ぶ。
実に、見ていて飽きない。
そう思いながらも博雅を見詰める晴明の眼差しはどこまでも優しく、甘やかだった。
暫くそうしてお互いに酌み交わしていたが、ふと、風が冷たくなった気がした。
晴明がふと空を見遣ると、空の彼方が僅かに暗くなってきたようだった。
「これは一雨来るかもな。」
「え?」
博雅が怪訝な面持ちで空を眺める。
先程よりも徐徐に彼方から暗さが増してきた様である。
先刻まで機嫌よく酒を楽しんでいた博雅の表情が、俄かに曇り出し、どこか心細げなものになる。
と、不意に空の一際暗い処が鋭く光った。と同時に地に響くような雷鳴が轟き始め、空の暗さが急速に色を増し、全体に広がっていく。
「せ、晴明・・」
博雅の声までもが小さくなり、徐徐に体を晴明の傍に寄せていく。
「なんだ、雷が怖いのか博雅。」
既に空は薄暗い雲で大部分覆い尽くされ、時折、雲の内に光が走る。
思わず、その光に怯えた様に博雅は晴明にしがみ付いていた。
「あ、あのような恐ろしいものを好む方が珍しいと思うぞ・・・」
と、殆どその言葉と同時に、空に閃光が走り、遠くに稲妻がその姿を見せたかと思うと、何処かに直撃したらしい衝撃音が響き渡った。
「うわあっっ!!」
博雅が慌てて晴明に抱き付く。
「おい、博雅・・・」
「せ、晴明・・・」
晴明が苦笑して博雅の背に手を廻し、優しく抱き締めてやる。
その内、ぽつ、と水滴が落ちてきたかと思うと、次第にそれは数を増し、やがて水の幕を張ったような土砂降りとなり、庭や草木に降り注ぐ。
「博雅、ここでは濡れるから奥に入ろう。」
それでも博雅は晴明にしがみ付いたままで中々動こうとしない。
「仕方のない。」
博雅をそのまま抱き上げ、晴明は奥の部屋へと入っていった。
その時、何かを小さく唱えると、開け放たれていた蔀戸が音を立てて閉じられる。
いよいよ雷は激しく荒れ狂い、雨も絶えず容赦なく地面に叩き付けるように激しく降り注ぐ。
雷鳴が轟く度に博雅はきつく晴明にしがみつく。
「博雅、それ程に雷が怖いか?おまえは時平公の孫だものな。やはり雷神となった管公が恐ろしいか?」
「い、いや・・・多分、管公には関わりなく、雷は苦手だ・・・うわっ!!あ、あれが落ちたらと思うと・・・」
くすり、と笑い、しがみついてくるその背を優しく撫ぜてやる。
「大丈夫だ、此処には落ちぬよ・・・雷が気にならなくしてやろうか?」
「・・・え?」
晴明を見上げた途端、唇が晴明のそれで塞がれた。
そのまま口腔をこじ開けられ、激しく貪られる。
「ん・・・っ・・」
漸く解放されたと思ったら、そのまま晴明の舌が首筋に移り、きつく吸い付かれる。
「や、せいめい・・・」
「おまえがあまりにしがみ付いてくるからその不安を取り除いてやろう、というのだ。
それに、あまり抱きつかれててはおれとて・・・抑えが利かなくもなる。」
「んな・・・っ」
「さあ、もう黙れ・・・」
晴明の熱い囁きと共に、博雅はそのまま押し倒され、衣を乱されていった。
「あああっっ、あっ、あっ!!」
御簾が降ろされ、外界と遮断されたような部屋の中、甘く熱い聲が絶えず響き渡る。
雨避けに降ろされた蔀戸はしかし、一枚だけ、上半分は上げられたままだった。
「ああっ、あんっ・・・」
博雅の口は閉じられる事なく、只、高く甘い嬌声を上げ続ける。
身の内に晴明を咥え込み、激しく揺さぶられ、突き上げられて、脚を晴明の腰に絡ませ、自らも腰を揺らめかせ・・・
晴明の望み通り、博雅は外で荒れ狂う嵐の存在を忘れ、ただ、与えられる悦楽に溺れきっていた。
それでも外の嵐は未だ治まる気配はなく、時折、雷光が上半分だけ上げられた半蔀から僅かに漏れて、瞬間、部屋を照らし出す。
己が組み敷いて快楽に喘がせているその躯までも・・・
「・・・天の怒りかもな・・」
「・・・せいめい・・?」
更に博雅の脚を抱え上げ、深く穿つ。
「あうっ!」
博雅の、ひくひくと震えてそそり立ち、蜜を噴き零す陰茎にも指を絡め、激しく突き上げる。
「あうっ!あ、ああっ!!」
「・・・こうして天に愛でられたおまえを穢して貶め、このように淫らに変えた、おれへの・・・おまえを犯す、という罪を犯したおれへの怒りかもな・・・」
更に博雅の脚を大きく開く。
晴明の手の中で悦びに震え、勃ち上がり濡れそぼつ陰茎が、晴明のものを根元まで咥え込み、紅く充血して捲れ上がる肉の襞が、時折漏れる雷光に照らされ、露わになる。
晴明が強く穿つ度に博雅の躯が撓り、胸の中央で硬くしこった蕾が更に芯を持たせる。
「ああ、あっ、あんっ・・・」
甘い聲が開かれたままの唇から絶えず紡ぎ出される。
汗に塗れた躯をくねらせ、腰を揺らめかせ、晴明の齎す悦楽に女の様に淫らに悦ぶ博雅。
「天の怒りを受けるのは・・・罰が落とされるのは・・おれだけでよい」
博雅に罪は無い。
罪を犯したのは自分。
罰も、自分だけに。
更に晴明が体を倒し、深く突き刺す様に博雅の内を穿つ。
「ああ、ああ・・・っっ」
衝撃に晴明を包み込む内壁がぎゅる・・と締まる。
「ううっ・・・!!」
そのきつい、絶妙な締め付けに堪え切れず、晴明のものが弾け、博雅の内に熱い欲望を叩き付けた。
同時に、手の中でひくつく博雅の先端を爪でくじる。
「あ、あああーーっっ!!」
その刺激に堪え切れず、博雅も絶叫と共に晴明の手の中で勢いよく熱い精を吐き出した。
そのまま、共に荒く息を吐き、落ち着くのを待つ。
暫くして晴明が博雅の内からずる・・と己を引き抜いた。
「あ・・・」
その感触に震える博雅の奥の蕾から晴明の放ったものがとろ・・と溢れ出る。
晴明は優しく博雅を抱き締め、顔中に口付けを降らせていった。
優しい口付けがくすぐったく、嬉しい。
博雅は甘えた様に晴明に擦り寄り、その背に腕を廻した。
暫くそのまま互いに余韻に浸っていたが、不意に博雅が口を開く。
「罪ではない・・・」
「・・・え?」
言いざま、博雅が晴明の肌に口付けを施す。
其処かしこに口付けながら、そのまま体を下に移動させ、晴明の下肢に顔を埋めた。
達して萎えた晴明の陰茎に舌を這わせ、口に含む。
「博雅・・・」
晴明は驚きを隠せない。
博雅が自ら晴明に奉仕するなど、殆ど無いからだ。
「ん・・・んんっ・・・」
博雅が懸命に口腔で抜き差しを繰り返し、その度に濡れた音が卑猥に響く。
その口淫は拙いながらも、博雅が己のものを咥えて昂ぶらせようとしている。
その事実だけで。
己の赤黒い、巨大なものを博雅の形のよい、紅く濡れた唇が咥えこむ様を眺めるだけで、晴明はすぐにでも気を遣りそうな程の悦楽を覚える。
「うう・・うっ・・・」
晴明が低く呻き、夢中で己のものをしゃぶる博雅の頭に手を遣り、促すように撫でてやる。
やがて、充分に勃ち上がった晴明のものから口を離し、仰向けになった晴明の腹に跨るように博雅が馬乗りになる。
「おい、博雅・・・」
晴明の目前で博雅は自ら奥まった秘所に晴明のものを宛がい、そのままゆっくりと内に咥え込もうとしている。
「博雅、無理はするな。」
「いいんだ、晴明・・このまま・・・」
晴明はその姿に目が離せない。博雅が自分から晴明のものを内に取り込むなど、やはり滅多に無いからだった。
「あうっ・・・く、うっ・・・」
博雅の眉が寄せられ、それでも懸命の腰を降ろしていく。
やがて、博雅の尻が晴明の腹に当たった。根元まで全て収めきったのだ。
そのまま博雅は晴明の腰に手を付き、腰を動かす。
晴明のものが抜ける程に己の尻を引き上げ、また降ろす。徐徐にその動きが激しさを増す。
「ふあ、あっ、ああっ・・・」
博雅が抜き差しを繰り返す度、先程放たれた晴明の残滓がとろりと内から溢れ、ぐちゅ・・ぬぷ、と淫らな水音を立てる。
「ああ・・・あはあっ、ああ・・・っっ」
晴明の目の前で博雅が女の様に腰を振りたてて快楽を追っている。
深い悦楽に、腹に付く程に反り返って勃ち上がり、蜜を吹き零しながらひくひくと震える博雅の陰茎と、奥の双珠が揺れている様。
悦楽と熱にうっすらと花の色に染まり、胸の中央で一際紅く色づく、固くしこった花の蕾の様な突起。
晴明のものを自ら咥えこみ、快楽に喘ぐ開かれたままの唇から覗く紅い舌。
絶えず漏れ出る、甘く掠れた聲、きゅっと寄せられた眉。深い悦楽に潤んだ瞳。
その姿だけで晴明のものが博雅の内で一気に昂ぶっていく。
「ああっ・・・んっっ」
晴明が博雅の腰を掴み、下から腰を使って突き上げる。
「ああっっ!!」
博雅の背が撓る。晴明の突き上げが更に激しさを増す。
「ああっ!!はああっっ!!」
博雅が絶えず高く甘い嬌声を漏らし続け、晴明の動きに合わせて腰を揺らめかす。
その潤んだ瞳が晴明を捉える。
「罪などではない・・・」
「博雅・・・?」
「・・おまえは・・罪など犯していない・・んんっ・・・この行為が罪だと言うなら、おれも犯している。こうしておまえのものを自ら咥えこみ、尻を振り立てて・・・これが罪で、罰が下るというなら・・ああっ、おれも共に・・・」
その時、上げられた半蔀から雷光が漏れ、博雅の姿が白く照らし出される。
晴明のものを咥えこみ、腰を振り立てて快楽を追う姿は淫靡でありながら清冽で、その姿に晴明は我を忘れた。
博雅の想いが、その姿があまりにも愛しくて。
晴明は博雅の尻を掴んで更に繋がっている箇所を広げ、下からの突き上げを激しくさせた。
「あああっっ!!」
「博雅・・・ひろまさっ・・・」
雷鳴が轟き、稲光が時折、部屋の内を照らし出す。
互いの肌を貪る濡れた音と肌のぶつかる音、甘く響く聲が夜中木霊し続けた。
瞼の裏に光を感じて博雅が薄らと瞼を上げる。
自分の体に廻されているのは晴明の腕。
晴明はまだ眠ったままだ。珍しい事だった。
いつもなら晴明が先に目覚めて博雅を眺めているのが常だったから。
部屋に光が漏れている。見ると、濡れ縁との境の半蔀の上半分が上げられていて、其処から外の光が射し込んでいるのだった。
その明るさに惹かれる様に晴明の腕から抜け出し、そのまま濡れ縁に出る。
「おお・・・」
夜の内に嵐は過ぎ去り、庭の草木が雨に洗われ、眩しい程の陽射しが余す所なく降り注いでいる。
草木から滴る滴がその光を受けてきらきらと輝く様だった。
昨日の汗ばむ程の暑さは感じられず、嵐が過ぎた後の清々しい涼気が優しく博雅の身を包み込む。
と、後ろからふわりと肩に衣が掛けられ、優しく抱き締められた。
「そのような姿で庭に出るものではないぞ。」
晴明がくすりと苦笑する。
言われて、博雅は己の姿に唐突に気付いた。
昨夜睦み合った時のまま、一糸纏わぬ姿であったのだ。
その姿を目の当たりにして、晴明は目が眩む思いであった。
眩しい程の陽の光を一身に浴びた博雅の白い裸身もまた、内から光を放つかの様に眩しくて・・・
やはり博雅は穢れていない。
穢れているのは、罪に塗れているのは自分唯ひとり。
晴明の腕の中で、博雅が目を輝かせて庭に見入っている。
「晴明、庭の草木が雨に洗われて実に清々しいな。きっと、どんなものでも昨夜の雨が洗い流してくれたのだよ。どんなものでもな・・・」
そして、博雅がゆっくりと振り返り、晴明を見上げる。
その瞳は降り注ぐ陽射しを映しとった様に暖かな光が宿っていた。
「まこと、おまえはおれの光だよ・・・」
そのまま顔を寄せ、博雅の柔らかく温かな唇に、そ・・と口付けた。
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