「おい、ルカワ、支度出来たか?そろそろ行くぞ。」
花道が流川の部屋に足を踏み入れ、中に居る自分の主を見て、瞬間、息を呑んだ。
そこに佇む花道の主人、魔界の貴族悪魔である、
ヴァラファール侯爵の称号を持つ、流川楓。
黒の正装に、しなやかで逞しい長身を包み、漆黒の艶やかな翼を出したその姿は威厳に満ち、気品に溢れ、人ならぬ端麗さを漂わている。
花道は思わず、その姿に魂を奪われた様に見入ってしまった。
相変わらず、自分の主は憎らしい程にカッコイイ。
「どあほう?」
「あ、ああ、んじゃ、もう行こうぜ!」
くる、と背を向けた花道の顔が赤く色付いていたのを、瞬時に見極めた流川は花道の腕を咄嗟に掴んだ。
「んだよ、ルカワ」
流川は皆まで言わせず、花道の体を抱き寄せてその唇を塞ぐ。
花道は流川の腕や背中を叩いて抵抗するが、抱き締めた腕の力はいよいよ強さを増し、流川の舌が口内に侵入してくると、最早花道は抗わなかった。
いつしか流川の首に腕を廻し、流川の求めに熱く応えていた。
暫くしてお互いの唇を堪能し、やっと口吻けを解く。
牧はくすり、と笑ってベッドに腰掛け、花道の頭に手を置く。
花道は唇を尖らせ、くる、と背を向けてしまった。
牧の居室に残ってすぐ、やや性急なまでに花道は牧に求められ、
それから暫く濃密な時が流れ、花道は漸く開放されたのだった。
自分の主とはまた違う、丁寧で優しいとも言える愛撫。
だが、自分を容赦なく追い詰め、過ぎる悦楽に何度も涙を流し、縋りついた。
いっそ残酷なまでの抱き方は、魔界の君主に相応しいとも言える。
自分の主、流川は違った。
いつだって自分を愛しみ、その想いが伝わって来る様に抱いてくれた。
お互いの肌に触れ合い、共に高みを目指し、体だけでなく、心も合わせて抱き合っているのだと、そう思えた。
こんな、心を置き去りにして、肉の愉悦だけを求める様な遣り方は、好きじゃない。
「今宵はお前達を招いて晩餐を用意してあるが、どうする?疲れているならここで休んでいるか?」
「…メンドクセー…」
「そうか。おまえの席は流川の隣に用意してあるのだが。」
「え?」
花道ががば!と身を起こす。
「今のナシ!オレ、出る!」
「分かった。何だ、現金なもんだな。」
「う…何だよ、じいの意地悪…」
「はは、むくれるな。さあ、おまえもシャワー浴びてこい。それと、晩餐の後は遅くなっ戻っても構わん。」
「え…?」
流川は牧に挨拶した後、花道と共にヨーロッパの片田舎にある、自分の城に戻った。
城に戻った花道は、疲れた様子も見せず、主の為に
食事を作り、自分も共に晩餐を愉しんだ。
その夜、主の寝室の広いベッドの上で、二人はゆったりとした時を過ごしていた。
「な、ルカワ」
「ん?」
流川の指が優しく花道の紅い髪を梳いている。
「オレ等が初めて逢った時の事、覚えてっか?」
「忘れるワケねえ。」
「あん時からオレ、オメーの傍に居たいって思ってた。今、ソレが叶って、オレ、嬉しい。」
「どあほう…一度、オレはオメーを手放した。それでもか?」
「それでも、だよ。今はずっとオメーの傍に居られるんだから…」
「花道……」
流川は花道を抱き寄せた。
「オレだって嬉しい。やっとオメーをオレだけのもんに出来たんだ。花道、好きだ。花道……」
「…オレも。」
花道はにっこり笑って、流川の首に腕を廻す。
やがて流川の唇が花道の唇に重なり、そのまま二人は体も重ねていった。
二人の真実はお互いの中にのみ。
互いが好きだという、ただそれだけ。