月に寄せたる想い
「その気持ちに名を付けるとしたら、それは恋…」
いつか、晴明がそう云った。
博雅は、ぼんやりと空を眺めながら、時折酒を満たした盃を口に運んでいる。
天には冴え冴えとした見事な望月。傍らには、この邸の主人である晴明が、何時もの様にあぐらをかき、片膝を立てて柱にもたれ掛かりながら盃を口に運んでいる。
口元にはあるかなしかの微笑を刻んでいるようにも見えるが、その視線は博雅の様に天の月を眺めているでもなく、傍らに座する博雅自身を眺めているようだった。
博雅は、あまりに冴え冴えとした月に気を取られ晴明のその視線に気付かない。晴明は微かに苦笑して
「博雅。そんなに惚けて月を眺めていると魂を吸い取られたかと思うぞ。」
その声に、漸く気付いた、という風に博雅が晴明を見やった。
「あ、ああ、すまぬ。あまりに月が美しかったのでな…」
そればかりではないだろう。と晴明は勘ぐる。
もしかしたら、博雅の心の内には今も…
「…望月を見ると、今も想い出す方がおるのではないか…」
晴明の言葉に博雅は意外そうに目を瞬かせた。
「何の事だ?」
博雅のその反応に晴明は安堵した様に微かな微笑を刻んだ。やれやれ、また自分の取り越し苦労か。
「何でもないよ…」
晴明は、腕を伸ばして博雅の肩を抱き、引き寄せた。
「晴明…?」
博雅が不思議そうに晴明の顔を見上げる。
その漆黒の大きな瞳に吸い込まれそうな気がして、晴明は博雅の頬に手を遣ると、ゆっくりと顔を寄せていった。
静かに二人の唇が重なり合う。
「ん…」
博雅が心地よさげに目を閉じ、微かな吐息を漏らす。
いつしか、博雅の唇を優しくついばんでいた晴明の唇が更に動きを深める。
舌を探り、絡め、角度を変えて博雅の唇を貪った漸く唇が離れると、濃厚な接吻に博雅の瞳は潤み、頬が僅かに紅潮している。
そんな博雅が愛しくて、優しく己の腕の中に閉じこめた。博雅も、うっとりとした表情で甘える様に頬を晴明の胸に擦り付ける。
晴明は博雅を愛おしげに眺め、それから冴え冴えと輝く天の月に目を遣り、
「おまえと一緒に月を眺めると、一層月が美しく見えるものだな。」
「ばか。何を言っている…」
晴明の言葉に、博雅の頬が更に赤みを帯びた。
「本当の事だ。おまえと居ると、全てのものが鮮やかに目に映るのだよ。おれにとってはな。」
「晴明…」
おれも、おまえと居ると、全てのものが鮮やかに見えるのだ…
博雅の呟きは再び重なった晴明の唇の中に消えた。
やがて、二人の体がゆっくりと傾いで重なり合い、熱を帯びた吐息が漏れ始める。
天には、冴え冴えと輝く望月が玲瓏な光を睦み合う二人にも惜し気なく振りまいていた。
お互いが共に在るのなら、全てのものはより輝きを増して映るのだろう。
了

携帯サイトキリリクネタでした。
ちょびっと映画前作入ってます。