紅い華の記憶
「晴明、おるか?」
何時もの様に、晴明の邸に博雅が酒を携えて上がり込む。目当ての人物は何時もの濡れ縁に柱にもたれて座していた。
博雅が傍に行こうとして、ふと足を止める。晴明の傍らには、博雅にとって見慣れたものが在ったからだった。
白磁の花器に生けられた紅い花。根に毒を持つ彼岸花が大量に花器に納まっている。
「晴明、その花は…」
やや上ずった声で晴明に訊いてみる。
「ああ、これか。式に命じて採りにやらせたのだ。やはり、手元に置いて眺めたくなってな…」
含み笑いをしながら、ちらりと意味ありげに博雅を見遣る。その視線に、博雅の頬が瞬時に紅くなる。つい先日、博雅は晴明とこの彼岸花が群れ咲く場所に出向いた.
そこで、殆ど済し崩しに睦み合ってしまったのだ。
野外で事に及ぶなど初めてで、今でも彼岸花を見るとその時の事を思い出して、自然と羞恥心が蘇ってしまう。
まして、晴明から揶揄するように含み笑いをされては…
「博雅、こちらに来て座れ。」
「あ、ああ…」
紅くなった顔を俯かせて晴明の傍に座ると、
「うわっ!」
晴明が博雅の腕を掴んで己の腕の中に閉じこめた。
「こ、こら晴明…」
晴明の腕から逃れようと、博雅はじたばたとあがくが、晴明はそれを許さず更に抱き込んで博雅の頬に指を這わす。
その感触に少しおとなしくなった博雅の唇にそっと自分の唇を重ねる。
「ん…」
晴明の柔らかい唇の感触に、気持ち良さそうに鼻に抜ける甘い聲を漏らした。
そのまま、晴明の舌が侵入し、お互いに深い接吻に夢中になっていく。
やっと唇を離した時には博雅の唇は濡れて光り、紅くなった唇が誘う様な艶を増していた。
それを眺めて晴明は博雅の耳に口を寄せて囁く。
「おれにとってはこの花よりもお前の方が鮮やかな紅を纏っておるな。」
そして、ゆっくりと床に押し倒していった。
「この可愛い唇も…」
晴明の白く長い指がつうっと博雅の唇をなぞる。更にもう片方の手は博雅の直衣を寛げ、肌を露にしていく。
段々に隠された思いがけず白い肌が曝され、胸に晴明が顔を埋めた。
「あんっ…」
博雅が甘い聲を漏らす。博雅の胸を愛撫しながら晴明が囁く。
「おれに弄られて可愛らしく立ち上がったこの乳首も紅く、艶めかしい…」
その言葉に博雅の顔が更に紅く染まった。
「ば、ばか!そんな恥ずかしい事…!」
「本当の事だ。だが、お前の躯で一番紅く艶めかしいのは…」
わざと博雅の耳に口を寄せて囁く。
「お前の最奥がおれを受け入れた後、物足りぬげにひくついているのが何とも紅く、艶めかしくていとおしい…」
晴明が優しく博雅に微笑む。その羞恥を知らない晴明の言葉に今度こそ博雅は耳まで真っ赤に染まった。
「お、おまえ、よくもそんな恥ずかしい事を照れもせず…」
口をぱくぱくさせて抗議する博雅に再び覆い被さり、愛撫を再開させていった。
「おれには花などよりお前の方が余程心惹かれる、という事さ…」
再び、博雅に覆い被さり、愛撫を施していく。博雅の甘い聲が響き、しっとりと睦み合う2人の傍らに彼岸花が先日の情事を思い起こさせるかの様にその存在を主張していた。
2人の情熱にも似て、紅く、赧い、鮮やかでありながらも何処か切ない色の花の姿。